蝦夷三官寺

蝦夷三官寺について

蝦夷三官寺（えぞさんかんじ）は、江戸時代後期、東蝦夷地に設立された三つの仏教寺院、すなわち厚岸国泰寺、様似等澍院、有珠善光寺の総称です。これらの寺院は、当時の国際情勢、特にロシア帝国の南下に対抗するために、江戸幕府によって文化元年（1804年）に建立されました。幕府は異文化の影響を受けることを恐れ、和人の安寧やアイヌ民族の親露化を防ぐ目的で、これらの寺院を通じて仏教を広めようとしました。

蝦夷三官寺は官寺と呼ばれ、幕府から扶持米が支給され、運営が行われました。また、2018年には北海道遺産に認定され、その歴史的重要性が再評価されています。

背景

近世の北海道は、松前藩が管理する和人の地域とアイヌの土地である蝦夷地に分かれていました。仏教寺院は存在せず、巡礼者の便宜を図るための非公式の宗教施設しかありませんでした。しかし、18世紀中頃になると、ロシア帝国が千島列島航路を開拓し、日本との交易を重視するようになっていました。このため、幕府は蝦夷地への直接支配を決定し、寛政11年（1799年）に第一次幕領期を迎えました。

初期の設立

享和2年（1802年）、箱館奉行が寺院の建立を申し出た際、最初は墓守の庵室程度の施設だけが求められていました。しかし、「外国の境」という事情を考慮し、蝦夷三官寺の設立が決定されます。設立の過程では、幕府が全権を保持し、教団の関与を排除したことが特徴です。

住職は、徳川家との関係が深い寺院から選出され、日蓮宗や浄土真宗は意図的に除外されました。このように、幕府は直接的な関与をもって三官寺の運営を支配します。「不正之筋」への懸念が背景にあり、特にロシアによるキリスト教の影響を危惧していました。

三官寺の役割

三官寺の活動は、蝦夷地における警備や出稼ぎ労働者の葬儀、さらには外国船の退散祈祷を行うことでした。また、アイヌに対しては穏やかな布教が行われ、様々な風俗に基づいたアプローチが取られていました。松浦武四郎は、有珠善光寺での教化活動について記録しています。

復領期と役割の変化

松前藩が復領した文政4年（1821年）以降、三官寺は引き続き重要な役割を果たしましたが、和人の長期定住が進む中、家族単位での葬儀も行われるようになりました。天保2年（1832年）には厚岸国泰寺に護国殿が建立され、幕府が期待する役割を果たすための施設として機能しました。

第二次幕領期

19世紀中頃に外国船の来航が続き、緊張が高まる中、安政2年（1855年）に蝦夷地再幕領化が行われました。この時期、幕府は内国化を進め、新しい寺院の建立が許可されました。三官寺は独占的な特権を失うものの、扶持米の供給は続きました。

新しい寺院との競争が始まり、三官寺は祭事の開催を通じて信徒の確保を目指すことになりました。しかし、幕府の移住政策による人別改帳の制限により、固定の檀家を得ることは難しい状況でした。

明治維新を迎えると、幕府からの扶持が途絶え、三官寺は官寺としての機能を終え、歴史の中で重要な役割を果たした寺院の一つとしての評価が残ります。これらの寺院は、当時の宗教と政治の関係について考える上でも非常に示唆的な存在です。

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