官寺

官寺とは

官寺（かんじ）とは、国家の監督下で運営され、国家から経済的な保障を受けていた寺院のことです。寺格の一つであり、国家の庇護を受ける代わりに、食封や墾田の所有権などを与えられていました。

広義には、朝廷や国衙が伽藍の造営や維持費用を負担していた寺院も含まれます。一般的には大寺（官大寺）と同義とされることが多いですが、国分寺や国分尼寺も官寺の一種とみなされることがあります。また、これらよりも小規模な有封寺や諸寺、皇室の私寺的な性格を持つ勅願寺、有力貴族の氏寺であった私寺のうち、官の保護を受けた定額寺も官寺に準じて扱われることがあります。

中世以降では、幕府が特に保護した禅宗の寺院を官寺と呼ぶこともありました。

官寺の役割

官寺は、主に鎮護国家の理念に基づいて設立され、天皇や皇室の安泰を祈願するための法会などが行われていました。原則として、大寺や国分寺には封戸や寺田、出挙稲が朝廷や国衙から支給されていました。有封寺には封戸が、定額寺や勅願寺には寺田や出挙稲が支給されました。

官寺は、中央からは僧綱、地方では国司や購読師によって管理・監督され、僧侶は国家が発行する度牒を受けた官僧が配されて、僧尼令によって統制されていました。ただし、私寺的な性格の強い定額寺や勅願寺には、僧綱らによる監督が及ばないか、限定的であったと言われています。また、中央の大寺には、特定の寺院の造営や管理を行うための令外官である造寺司が設置されていました。

食封の期限は、大寺や国分寺は半永久的でしたが、後に天皇一代に限定されるようになりました。有封寺は当初30年とされていましたが、大宝律令によって5年に短縮されました。しかし、宇佐八幡宮神託事件以後、桓武天皇が僧侶の政治関与を排除し、財政再建のために寺院統制を強化し、封戸の削減を行いました。さらに、朝廷が信頼できる僧侶を座主や別当に任命し、寺院の支配を行わせるようになりました。

官寺の衰退

平安時代中期以降、律令制が弛緩するにつれて、官寺は衰退し、中には他の寺院の末寺となったり、廃絶となる寺院も現れました。しかし、国家による寺院の保護・統制政策自体は、鎌倉幕府の関東祈願寺、室町幕府の五山十刹、江戸幕府の寺院諸法度などに継承されています。

官寺の歴史

日本最初の官寺は、舒明天皇11年（639年）から造営が始まった百済大寺（後の大官大寺・大安寺）とされています。奈良県桜井市の吉備池廃寺がその寺跡であると考えられています。

『日本書紀』には、天武天皇9年（680年）に「官司治むる」「国大寺二三」という記述が見られます。これは、皇室と深い関わりのあった大官大寺・川原寺と、蘇我氏の氏寺でありながら朝廷の保護を受けていた法興寺（飛鳥寺）のことだと考えられています。

『続日本紀』には、大宝2年（702年）に「四大寺」という記述が見られ、これは前述の3寺に薬師寺を加えた4寺を指すとされています（藤原京四大寺）。その後、平城京遷都に伴い、大官大寺は新京に移されて大安寺と改名し、法興寺も移転されて元興寺と改名されました。

天平勝宝8年（756年）には、「四大寺」に興福寺・東大寺・法隆寺の3寺を加えた計7寺が「七大寺」として記録されています。ただし、川原寺を除いて西大寺を加えた、後世に「南都七大寺」と呼ばれる寺院を指すという説もあります。

宝亀元年（770年）には「十二大寺」という記述も見られますが、どの寺院を指すのかは不明です。

延暦10年（791年）には、四天王寺、崇福寺と西大寺（または川原寺）を加えた「十大寺」が定められました。

『延喜式』では、大寺のうち、「十大寺」に唐招提寺、新薬師寺、本元興寺（現・飛鳥寺）、東寺、西寺を加えた「十五大寺」が定められました。ただし、本元興寺を除いて法華寺を入れるという異説もあります。

『拾芥抄』は、東大寺、興福寺、薬師寺、元興寺、大安寺、西大寺、法隆寺、新薬師寺、不退寺、法華寺、超昇寺（超勝寺）、龍興寺、唐招提寺、宗鏡寺、崇福寺を十五大寺としています。

これらの寺院以外にも、梵釈寺や建興寺（豊浦寺、現・向原寺）のように、「十五大寺」には含まれないものの、大寺と同等の待遇を受けていた寺院や、戒壇が置かれた観世音寺や下野薬師寺なども存在しており、この時期になると名数自体にはあまり意味がなかったと考えられています。

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