行動学入門

行動学入門 - 三島由紀夫

『行動学入門』は三島由紀夫の評論・随筆であり、戦後の社会情勢における行動の意味や美について考察されています。特に、弁舌が先行しがちな時代において、行動の重要性や困難さを深く掘り下げています。この作品は1969年から1970年にかけて雑誌『Pocket パンチ Oh!』に連載され、1970年に単行本として刊行されました。その後、文庫版も発表されています。

背景

『行動学入門』の執筆時期は、戦後の高度経済成長が頂点を迎えていた頃であり、特に若者の「男らしさ」が失われつつあるという風潮が強まりました。三島は当時の社会における青少年の過保護化や男性の外見の変化に危機感を抱いており、その影響を打破するためにこのエッセイを執筆しました。アラン・ドロン主演の映画『サムライ』に触発されて、この問題を社会に提起する機会を得たのです。

作品の構成

本書は「行動とは何か」から始まり、全12項目に分かれて行動のさまざまな側面に迫ります。「軍事行動」や「行動の心理」、「行動のパターン」など、行動に関連する多面的なテーマが取り上げられており、それぞれの章で行動の美しさや難しさ、人間の生と死までもが考察されています。

特に印象的なのは、「行動と待機」の章です。ここでは、行動の目的を達成するためには待機と忍耐が不可欠であると述べられています。三島は、行動を起こす瞬間まで全身全霊をかけて準備しなくてはならないとし、その意志の強さが理想的な行動を生むと力説しています。

評価と分析

『行動学入門』は、三島の多数の評論や随筆の中でも、比較的読みやすく、一般の読者向けに書かれたものです。虫明亜呂無はこの作品が三島事件への「決定的な予言の役割を果たしている」と分析し、三島が持つ行動への思索が、彼の人生の複雑さや苦悩によってより深く裏打ちされていることを示しています。

さらに、三島は行動が最大の効果を発揮するためには状況を見極めることが重要であり、その結果として生じる行動は単にスポーツや冒険に限らず、個人や集団、世論までもが影響を及ぼすことを指摘しています。このような視点から、三島は行動の本質に潜む犯罪性や法的制約についても触れ、現代社会における行動の意味について複雑なジレンマを呈示しています。

主な刊行情報

• - 単行本: 『行動学入門』(文藝春秋、1970年10月15日)
• - 文庫版: 『行動学入門』(文春文庫、1974年10月25日)
• - 全集収録: 『三島由紀夫全集34巻（評論X）』(新潮社、1976年2月25日)

このように『行動学入門』は、三島由紀夫自身の行動に対する矛盾や葛藤を浮き彫りにし、行動の本質とその困難さを追求する重要な作品です。

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