行政裁判所 (日本)

行政裁判所：大日本帝国憲法下の特例裁判所

明治23年(1890年)、大日本帝国憲法に基づき東京に設置された行政裁判所は、行政訴訟を専門に扱う特別裁判所でした。紀尾井町に置かれ、行政裁判所長官と14人の評定官から構成されていました。一審制であり、大審院への上訴は認められませんでした。

裁判権と主な訴訟対象

行政裁判法と関連法令で定められた裁判権は、租税や手数料の賦課に関する事件(関税を除く)、租税滞納処分、営業免許の拒否や取消、水利や土木に関する事件、土地の官民有区分の査定など多岐に渡りました。土地収用法、市制、町村制、府県制など個々の法令にも、行政裁判所の管轄事項が規定されていました。つまり、行政庁の違法な処分に対する救済手段として機能していたのです。

勝訴率：行政と司法の対比

行政裁判所の原告勝訴率は、全体では約3割程度でした。1890年から1945年までの勝訴率は23.2％、実質勝訴率は33.1％と記録されています。1936年から1945年のデータでも、勝訴率は25.3％、実質勝訴率は31.1％でした。これは、日本国憲法下の司法裁判所における行政訴訟の原告勝訴率（約1割）と比較すると、かなり高い数値です。この差は、裁判所の性質や、当時における行政権力の強さなどを反映していると考えられます。

廃止とその後

昭和22年(1947年)、日本国憲法と裁判所法の施行により行政裁判所は廃止されました。日本国憲法は特別裁判所の設置を禁じ、行政機関による終審裁判も認めていないためです。行政裁判所の事件は、東京高等裁判所が引き継ぎました。

ドイツ・フランス法の影響と司法の独立

行政裁判所制度は、ドイツやフランスなどの大陸法をモデルとして導入されました。しかし、日本国憲法は英米法の影響を強く受け、司法権の独立性を重視する方向へ転換した結果、行政裁判所は歴史の舞台から姿を消しました。興味深いのは、行政裁判所の評定官の多くが行政官出身で、枢密院や議会の書記官を兼務していた点です。これは、司法権と行政権の距離感について、当時の社会状況を反映していると言えるでしょう。

現代への視点

行政裁判所の廃止は、日本の司法制度に大きな転換をもたらしました。司法権の独立性の強化、そして行政と司法の明確な分離を促したと言えるでしょう。現在、行政訴訟は、通常の裁判所で行われるようになり、国民の権利保護の観点からも、より透明性と公平性が確保されるようになりました。かつて紀尾井町にあった行政裁判所の跡地には、現在、ビルや大学が建ち、時代の流れを感じさせます。この歴史的経緯を知ることで、現代の日本の司法制度をより深く理解することができるでしょう。

参考文献

* 小野博司「戦時期の行政裁判所」四天王寺大学紀要 第52号（2011年9月）

もう一度検索