術士アブラメリンの聖なる魔術の書

『術士アブラメリンの聖なる魔術の書』について

『術士アブラメリンの聖なる魔術の書』、またの名を『アブラメリンの書』は、守護天使や他の超自然的存在とのコンタクトを通じて願望を叶える方法を記載した魔術書です。このグリモワールは、ドイツ系のユダヤ人魔術師、アブラハムによって書かれたとされ、彼が出会った聖者から習った秘術を子息ラメクに伝えるために作成されたものとされています。

著者アブラハムは14世紀から15世紀に生きた人物で、神の真理を求め、様々な土地を旅していたところ、エジプトでアブラメリンという名の賢者に出会い、秘術を学びました。この学びを基に、アブラハムは心身を清め、聖守護天使との対話を通じて超自然的な力を手に入れ、悪魔を使役する方法を詳細に述べています。

本書の特徴として、まず著者は魔術師として成功するために必要な心身の清めや倫理的な行為を強調しています。特に、6ヶ月間にわたる隠棲生活を行い、懺悔や祈りなどを通じて精神を清らかにすることが求められます。この過程を経て、聖守護天使と対話する準備が整うとされています。聖守護天使とは、各自の魂の中で最も神聖な部分を象徴しているとされ、外部から来る存在ではありません。この対話を通じて、魔術師は自らの本来の聖性に目覚め、悪魔的存在を使役する能力を得るとされています。

魔術師が聖守護天使の加護を受けた後は、悪魔の召喚が行われます。ここで言う悪魔とは、ルキフェルやレヴィアタン、サタン、ベリアルといった上位の悪魔を指し、それに続くアスタロトやアスモデウスなどの配下も呼び出します。召喚された悪魔たちに忠誠を誓わせることによって、魔術師は彼らを使役する資格を得るのです。

本書には、願望をかなえるための護符の図版も多く含まれています。これらの護符はシンプルな形状をしており、他の魔術書に見られる複雑な記号や文字とは一線を画します。例えば、未来や過去の出来事を知るための護符や、使い魔に金属を生成させるための護符があり、使用される文字は古代語の単語が由来であることが示されています。

『アブラメリンの書』は、1898年にオカルティストであるマグレガー・メイザースによって英訳され、広く知られるようになりました。しかし、彼が翻訳したフランス語手稿はその真偽に疑念を招き、18世紀以前に成立したものでない可能性も指摘されています。

マグレガー・メイザースは本書の出版を促進するため、友人のフレデリック・リー・ガードナーから資金を借り、期待したほどの販売成果は上がりませんでした。著書の信憑性や販売を巡って、彼とガードナーの間には摩擦が生じたことも知られています。

現在では、18世紀に翻訳されたフランス語版や、17世紀、18世紀のドイツ語版が存在し、元々はドイツ語で書かれたことが推測されています。これらの異なる版を比較し、新たに編集された『アブラメリンの書』も出版され、さらに広く研究が続けられています。

この著作は、魔術とオカルティズムに興味を持つ読者にとっては、それぞれの解釈や実践の幅を広げる貴重な資料となっています。従来の魔術書とは異なるアプローチや思想が描かれており、現代でもなお多くの人々の興味を引き続けています。

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