衛武営国家芸術文化中心

台湾南部の中心都市、高雄市に位置する衛武営国家芸術文化中心は、台湾を代表する大規模な複合舞台芸術施設です。衛武営都会公園の北東角にあり、英語では「National Kaohsiung Center for the Arts」と呼ばれています。これは台北市の国家両庁院、台中市の台中国家歌劇院に続き、国内で3番目に整備された国立ホールであり、特に台湾南部においては初の国立文化施設として、地域の文化芸術活動における中心的な役割を担っています。

この壮大な施設は、計画から完成まで約15年という長い歳月と、107.5億ニュー台湾ドルもの巨額な建設費を投じて実現しました。台湾における文化インフラ整備事業としては最大級の規模を誇ります。当初、中華民国文化部の準備機関が建設を推進し、開館前に現在の運営主体である行政法人「国家表演芸術中心」へと移管されました。

歴史的背景と開発経緯

衛武営の敷地は、かつて日本統治時代には軍用倉庫、戦後は中華民国陸軍の軍営地として使用されていました。1979年に軍事利用が終了した後、その広大な土地は再開発の対象となります。2002年に都市公園としての転用計画が持ち上がり、翌年には正式決定。都市公園、アートセンター、商業施設を一体的に整備する複合開発プロジェクトへと発展しました。アートセンターの建設は、当時の陳水扁政権が推進した大型公共事業政策「新十大建設」の一つに組み込まれ、国家レベルでの重要プロジェクトとして位置づけられました。総面積66.6ヘクタールの敷地のうち、アートセンターと商業施設がそれぞれ約10ヘクタールを占め、残りが衛武営都会公園として整備されました。

施設の建設計画は2005年に承認され、当初は比較的早い完成を目指しましたが、様々な要因により計画は度々延期されました。国際設計競技の結果、オランダの建築家フランシーン・フーベン氏のデザイン案が採用され、2010年4月に正式に着工。その後も竣工や開業の延期を経て、2017年10月にようやく竣工。そして、2018年 10月13日に満を持してグランドオープンを迎えました。この長期にわたる建設期間は、プロジェクトの規模と複雑性を物語っています。

建築デザインと革新性

衛武営国家芸術文化中心の建築デザインは、オランダのメカノー建築事務所に所属するフランシーン・フーベン氏が手がけました。そのデザインの最大の特徴は、台湾南部に多く見られるガジュマルの木をモチーフとしている点です。建物の外観や内部の空間は、ガジュマルの巨木が枝葉を広げる様子や、その根元にできる洞窟のような空間をイメージしています。特に、総表面積31,000平方メートルに及ぶ巨大な曲面屋根は、大海原やシロエイを連想させるとも言われます。この屋根は衛武営専用に設計され、強力な耐風圧性能を備えています。

建物の中央に広がる「榕樹広場」は、各ホールを結ぶ主要な通路であり、ガジュマルの木の下に広がる空間を表現しています。総面積23,000平方メートルにおよぶこの広場は、世界最大級の一枚構造空間とされており、その複雑な曲面を実現するために、地場産業であった造船技術が応用されました。巨大な船体のような構造は、その建設プロセスにおいても高度な技術力を要し、鉄骨の組立難易度は北京国家体育場（鳥の巣）をも超えると言われました。施設の建設には、延べ100万人もの作業員が関わり、地下掘削量はオリンピックプール約230個分、鉄骨使用量はエッフェル塔3本分に相当するなど、その規模の大きさが伺えます。革新的なデザインと高度な建築技術は国内外で高く評価され、「Idea-Tops Award」や「Architizer A+ Awards」など複数の建築賞を受賞しています。

多様なホール群

衛武営国家芸術文化中心には、さまざまなジャンルの舞台芸術に対応する個性豊かな4つの室内ホールと、開放的な野外劇場が設けられています。

歌劇院（Opera House）: 建屋の中央に位置するメインホールで、オペラやミュージカルなど大規模な公演に最適です。2,236席を有し、可動式のオーケストラピットやバリアフリー席も完備。内装はオペラの雰囲気に合わせた暗紅色を基調としています。
戯劇院（Playhouse）: 建屋西側にあり、演劇や舞踊、伝統劇など多様な舞台芸術に対応します。席数は1,209席。劇場用としては世界最大級とされる高さ11メートル、幅4メートルの遮音ドアが設置されています。
音楽庁（Concert Hall）: 建屋南東角に位置する音楽専用ホールで、クラシックコンサートなどに最適な音響設計が施されています。1,981席の客席は、舞台を取り囲むように合唱席も配置可能です。このホール最大の特色は、台湾およびアジア最大級となるパイプ数9,085本の巨大なパイプオルガンです。ドイツのヨハネス・クライス社が製作し、竹林を模したパイプの意匠も目を引きます。天井の反響板は高さ調整が可能で、さまざまな演奏形態に対応できます。
表演庁（Recital Hall）: 建屋北東角にある小規模ホールで、リサイタルや室内楽、実験的な公演などに適しています。席数は434席。
* 野外劇場（Outdoor Theater）: 建物の南側、衛武営都会公園の中央草坪に面した屋外スペースです。曲面屋根から続く緩やかな勾配がそのまま客席となり、約1,000人規模の観客を収容できます。開放的な空間で、気軽に舞台芸術やイベントを楽しむことができます。

アクセス

高雄メトロ（MRT）オレンジラインの衛武営駅とは6号出口で直結しており、公共交通機関でのアクセスが非常に便利です。また、駅周辺のバス停からは市内各地への路線バスも多数運行しています。

衛武営国家芸術文化中心は、そのユニークな建築、巨大な規模、そして充実した施設によって、台湾南部の文化芸術シーンを牽引する新たなランドマークとして、国内外から大きな注目を集めています。

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