陳水扁

陳水扁（ちん すいへん）

陳水扁は、1950年10月12日に台湾南部の台南県官田郷で生まれました。小作農家の長男として育ち、幼少期から学業に励み、国立台湾大学法学部を卒業後、弁護士として活躍しました。1979年の美麗島事件を機に政治の世界へ足を踏み入れ、台北市議会議員、立法委員、台北市長を歴任し、2000年には台湾初の民主進歩党出身の総統に選出されました。彼の政治キャリアは、台湾の民主化と政治変動を象徴する出来事として深く記憶されています。

通称と愛称

陳水扁は「阿扁（あへん）」という愛称で親しまれました。「阿」は人名に付けて親近感を表す言葉で、この愛称によって国民との距離を縮めることに成功しました。また、学生時代から成績優秀だったことから、「第一名（第一位）」と呼ばれることもありました。

生い立ち

幼少期は貧しい環境で育ちましたが、学業で優秀な成績を収め、奨学金を得て小学校を卒業しました。台湾大学では当初商学部に進学しましたが、民主活動家の演説に感銘を受け法学部に転部。在学中に司法試験に合格し、最年少弁護士となりました。兵役は右肘の故障で免除されています。その後、小学校から同じ学校に通っていた呉淑珍と結婚しました。弁護士としては海商法を専門とし、長栄海運の顧問弁護士を務めていました。

政界進出

1979年の美麗島事件で被告の弁護団に加わったことが、陳水扁が政治の世界へ足を踏み入れるきっかけとなりました。その後、反国民党運動に身を投じ、1981年には台北市議会議員に当選。同時に、言論の自由を求める雑誌社の社長も務めました。1985年には台南県長選挙に立候補しましたが落選。その選挙期間中には、妻が交通事故に遭うという悲劇に見舞われました。1986年には名誉毀損で告訴され、懲役刑を受けましたが、これを機に民主化運動への関心が高まりました。出所後は弁護士活動を再開し、妻の政策秘書として政治活動を続けました。その後、民主進歩党に入党し、立法委員に当選するなど、着実に政治家としての地位を確立しました。

台北市長

1994年、台北市長選挙に民進党公認で出馬し、国民党の候補者を破って当選しました。在任中は、台北捷運の建設や下水道整備など、都市インフラの整備に尽力し、市民から高い支持を得ました。しかし、1998年の市長選では、国民党の有力候補に敗れ、再選はなりませんでした。

総統選出馬と当選

台北市長落選後、陳水扁は「学習之旅」と題した海外歴訪を行い、2000年の総統選挙に向けた活動を開始しました。民進党の候補として出馬した陳水扁は、中間左派の政策を掲げ、国民党の分裂も手伝って、39.3％の得票率で当選しました。これにより、台湾は国民党から民進党への初の政権交代を経験することとなりました。

中華民国総統として

1期目（2000年 - 2004年）

総統就任当初は、超党派の「全民政府」を掲げましたが、原子力発電所の建設問題を巡り与党内の対立が表面化し、政権運営は困難を極めました。また、政策の実行能力についても各方面から批判を受けました。党内からも反発を招き、民主進歩党結党時のメンバーからも批判の声が上がるようになりました。

2期目（2004年 - 2008年）

2004年の総統選挙では、選挙前日に銃撃事件が発生し、その影響もあってか、僅差で再選を果たしました。しかし、この選挙結果に対して野党は強く反発し、選挙の無効を訴えました。その後、司法の審理によって陳水扁の当選が確定しました。この事件は、台湾の政治情勢を大きく揺るがす出来事となりました。

スキャンダル

陳水扁政権の末期には、数々のスキャンダルが発覚し、政権は大きく揺らぎました。まず、側近や親族の汚職事件が相次ぎ、陳水扁自身の機密費の不正流用疑惑も浮上しました。これらのスキャンダルは、陳水扁の支持率を大きく低下させる要因となり、政権運営に大きな打撃を与えました。

台湾正名政策

陳水扁政権は、「台湾正名政策」を推進し、公共機関などで使用される「中国」の名称を「台湾」に変更しました。また、蔣介石を記念する施設や名称の変更も行いました。

両岸関係と外交政策

陳水扁は台湾独立の傾向が強い人物でしたが、任期中は「四つのノー、一つのない」を掲げ、中国との関係にも配慮した政策を打ち出しました。しかし、任期終盤には台湾の国際連合加盟申請など、中国を刺激するような動きも見られました。また、中国との経済関係の管理を強化する政策を打ち出し、東南アジア諸国への投資を推奨しました。

総統退任後の逮捕と公判

総統退任後、陳水扁は汚職容疑で逮捕され、裁判にかけられました。裁判では、機密費の不正流用、収賄、資金洗浄など、数々の罪で起訴され、有罪判決を受けました。第一審では無期懲役を宣告されましたが、控訴審で懲役20年に減刑されました。その後、収賄事件で懲役刑が確定し、収監されました。その後、健康状態の悪化から仮釈放が認められ、自宅療養となりました。

政界引退

仮釈放後、政党を設立しましたが、選挙での敗北を受けて政界を引退しました。現在では政治活動から距離を置いています。

その他の出来事

アメリカ司法省は、陳水扁一家がアメリカ国内に所有している不動産をマネーロンダリングに関連するとして没収する訴訟を起こしました。

陳水扁は、台湾の民主化と政治の変遷を語る上で、欠かせない人物の一人です。彼の政治キャリアは、台湾の現代史における重要な出来事として、今後も語り継がれていくでしょう。

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