複合弓

複合弓：高い威力と精巧な技術の結晶

複合弓とは、木材や竹などの主要素材に、動物の骨、腱、角、さらには金属板といった複数の素材を組み合わせることで、射程と破壊力を飛躍的に向上させた弓です。単一の素材で作る丸木弓（セルフボウ）とは対照的に、その精巧な構造と高い性能から、古来より多くの民族に愛用されてきました。特に、ユーラシア大陸中央部の遊牧民にとって、複合弓は軍事力の中核を成す重要な武器でした。

複合弓の構造と製造

複合弓の製造は、高度な技術と手間を要する複雑な工程でした。まず、軸となる木材の弓を用意し、弓を引く際に伸びる外側には動物の腱を、縮む内側には角や骨を、膠（にかわ）で丁寧に貼り付けていきます。腱は糸状にほぐして使用し、素材の接着には数ヶ月にも及ぶ時間を要したため、特に長大で威力の高い複合弓は非常に高価なものでした。木材は弓の土台としての役割が主で、弾力性そのもので威力を高めているわけではありません。

複合弓は、その構造から、サイズに対して驚くべき張力を持ちます。肘程度まで弦を引いただけで、胸まで引いた長弓に匹敵、もしくは上回る威力を発揮しました。さらに、耳やそれ以上にまで弦を引ける弓懸を使用することで、威力を増大させることもできました。トルコの弓と呼ばれる複合弓は、長距離用の矢を約600メートルも飛ばすことができたとされ、コンパウンドボウ以前の弓としては最長の射程を誇ります。

複合弓と遊牧民

ユーラシア大陸中央部の遊牧民、例えばスキタイ、パルティア、匈奴、フン、マジャール、セルジューク、モンゴルなど、多くの民族が複合弓を軍事技術の中核として活用しました。彼らは複合弓の構造と素材を改良し、独自の戦法を開発することで、ヨーロッパや東アジアの農耕民族にとって大きな脅威となりました。東ローマ帝国のように、複合弓を輸入して軍隊に取り入れる国もあったほどです。15～16世紀以降、火薬兵器が発達した時代になっても、馬上での銃の扱いにくさや連射の困難さから、遊牧民の中には複合弓を使い続ける民族もいました。

複合弓の長所と短所

長所:

セルフボウに比べて小型軽量でありながら、高い威力を発揮する。
馬上や馬車からでも容易に射撃できる。
リカーブボウ形状のため、扱いやすい。

短所:

製造に高度な技術と長時間を要する。
膠が湿気に弱いため、湿度の高い地域では使用に不向き。そのため、複合弓は温帯や乾燥した地域で好まれた。
弦は、近代以前のあらゆる弓と同様に、雨や湿度に弱いため、乾燥した状態を保つ必要がある。ビザンチン軍のマニュアル『ストラテギコン』には、複合弓を革のケースに入れて乾燥させるよう記述されている。

複合弓の歴史と種類

複合弓の歴史は古く、古代エジプトに侵攻したヒクソスが、木と動物の角を使った複合弓でエジプト軍を苦しめました。その後、ユーラシア大陸の遊牧民によって改良が重ねられ、様々な地域に広まりました。アラブの複合弓は、預言者イシュマエルによってもたらされたと考えられており、Hijāziと呼ばれる種類があり、材質や構造にバリエーションが見られます。ヤギの角と腱で強化された弓は、精鋭兵や水辺に住む人々のみに使用されたと言われています。

まとめ

複合弓は、その高い威力と精巧な構造から、古来より世界各地で用いられてきた弓です。特に遊牧民の軍事技術において重要な役割を果たし、その歴史と技術は、今日の弓の設計にも影響を与え続けています。

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