褐毛和種

褐毛和種（あかげわしゅ）

褐毛和種は、日本の固有種である和牛の一種で、主に肉牛として飼育されています。英語ではJapanese Brown Cattleと呼ばれています。

概要

褐毛和種は、熊本県や高知県で飼育されていたあか牛を基に、シンメンタール牛や朝鮮牛を交配して改良された品種です。大きく分けて熊本系と高知系があり、それぞれ改良の歴史や外見、特性が異なります。熊本系の褐毛和種は、北海道や長崎県などでも飼育されています。どちらの系統も朝鮮牛を起源とすると言われています。

耐寒性と耐暑性に優れており、性格がおとなしいことから放牧に適し、飼育しやすいのが特徴です。牛肉としては赤身が多く、適度な脂肪分を含み、旨味とやわらかさを兼ね備えています。

各系統の特徴

熊本系

阿蘇地方では古くから家畜の飼育が盛んであり、熊本系の褐毛和種も放牧に適するように改良されてきました。その放牧風景は、伝統的な農法のシンボルとなっています。

高知系

高知県内でのみ飼育されています。平成31年2月時点での飼育頭数は2399頭で、そのうち繁殖雌牛は1029頭です。平成30年の年間出荷量は約470頭で、和牛生産量の0.1%を占めています。

被毛は褐色で、目の周囲、まつげ、鼻、蹄、角先、尾の先などが黒いのが特徴です。明治時代半ばに九州方面から高知県に移入され、大正7年から県内の牛から優秀な個体を選抜し、閉鎖育種によって改良が進められ、昭和19年に「褐毛和種」として認定されました。

歴史

くまもとあか牛は、日本神話に登場する健磐龍命が阿蘇の湖水を開拓して田畑を作り、放牧をして農業を始めた頃から馬とともに飼われていたと伝えられています。また、大友宗麟統治の頃に役用として輸入された朝鮮半島系の韓牛が起源であるという説もあります。

明治時代に熊本・高知で繁殖され、明治時代後半からシンメンタール牛の雄を交配したものに発し、1930年（昭和5年）に決められた最初の改良目標に向けて改良が進められました。1937年（昭和12年）には中央畜産会による本登録の一元化が行われ、「褐毛系役肉用牛」と仮称され、1940年（昭和15年）に熊本、高知共通の審査標準が作成されました。その後、何度かの改訂を経て現在に至ります。

改良過程は熊本系と高知系で異なり、熊本系では1881年（明治14年）頃にデボン種による改良が試みられましたが、使役に耐えられないという理由で中断されました。その後、1900年（明治33年）に政府が牛を役用から役肉用牛に転換する目的で在来和牛の改良を外国種との交雑によって行う方針を定め、シンメンタール種、ブラウンスイス種を含む数種の外国種が用いられました。1911年（明治44年）に全国的に和牛と外国種の交配が推進されたことを受けて、熊本でも小柄なあか牛に、スイス原産の大きな乳肉役兼用牛であるシンメンタール種を交配して改良することになりました。1922年（大正11年）頃からはシンメンタール種の交雑を専ら行うようになりました。

遺伝的血統はシンメンタールが25％以下としながら体格の増大と毛色の褐色単一化を図り経済的な役肉兼用牛を作出することを明確な改良目標とし、選択淘汰が繰り返されました。その結果、理想とする褐色単一の役肉兼用牛が作出され、直接検定、間接検定、現場検定、ET（受精卵移植）牛作出などによる改良を重ねて誕生したのが、現在の熊本系あか牛です。高知系は日韓併合の際に朝鮮半島から現地の農務省の役人が選抜して送った牛を元に改良されているのが大きな違いです。

1944年（昭和19年）に肥後のあか牛と土佐のあか牛は現在の名称に命名され、良い遺伝子を寄せて交配によるバラツキがない種として、黒毛和種、無角和種、短角和種と同様に日本固有の肉用品種和牛に認定されました。日本国内の肉用品種の5%を占めると推測されています。正式名称は褐毛和種熊本系、褐毛和種高知系のように区別されます。色は熊本系は金色に近く、高知系はオレンジ色に近いのが特徴です。

熊本県には似た毛色のジャージー牛が日本で2番目に多く飼育されていますが、ジャージー牛は乳牛であることや小柄であること、毛色が灰色っぽい茶色であることから容易に区別できます。登録は熊本系については日本あか牛登録協会、高知系は全国和牛登録協会の管轄になります。熊本系の名称は熊本あか牛、あか毛和牛、高知系の名称は土佐和牛などと呼ばれます。

身体・特徴

熊本系の毛色は黄褐色単色で、体下部、四肢内側、眼、鼻の周辺が淡い色をしています。高知系は「毛分け」と称する角、蹄、眼瞼、舌、尾房、肛門などが黒い牛が好まれています。

体格は黒毛和種に比べてやや大きく、雌で体高130cm、体重470kg（雄で体高140cm、体重750kg）です。中躯の伸びが良く、後躯も充実しています。

1日増体量は1000～1200ｇ、枝肉歩留は60～63%程度で、産肉能力は高いです。筋繊維はやや太く、脂肪沈着も黒毛和種に劣りますが、耐暑性に優れ、粗飼料利用性が高いのが特徴です。肉色はあずき色で、脂はβカロテンが沈着した薄いクリーム色をしています。赤身肉中に8～15%の適度な脂肪を含んでいます。エネルギー含量の多い穀類を多給するとすぐに太って脂っこい肉質になる傾向があります。ビタミンA（βカロテン）とビタミンE（αトコフェロール）が豊富で、霜降り部分の脂肪酸のn6/n3比率が低く、健康に良い脂肪酸バランスが特徴です。

あか牛の改良、増殖は永年の行政的な指導、推奨およびあか牛生産者の熱意によるところが大きいです。

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