西パプア共和国

西パプア共和国（インドネシア語: Republik Papua Barat）は、ニューギニア島西部においてかつて樹立が提唱された、国際的な承認を得ていない国家です。この地域は現在、インドネシアが自国の領土として主権を主張しており、1963年5月1日以降はインドネシアの実効支配下に置かれています。インドネシア統治下の呼称は西イリアン、イリアンジャヤなどを経て、現在はパプア、山岳パプア、中部パプア、南パプア、西パプア、南西パプアという6つの州に分割されています。

提唱された西パプア共和国は、独自の象徴として標語「Setia, Jujur, Mesra」（マレー語で「忠誠、正直、愛情」）、国歌「我が地パプア」（Hai Tanahku Papua）、そして国章を持つとされました。掲げられた旗は「明けの明星旗」です。

歴史的経緯

ニューギニア島西部は、1855年以降、オランダ海上帝国の一部であるオランダ領東インド、のちにオランダ領ニューギニアとして統治されていました。第二次世界大戦後の1949年、インドネシア独立戦争を経てインドネシア連邦共和国が独立すると、この地域の施政権を巡る問題が生じます。オランダは、民族的な背景の違いから、ニューギニア島西部をインドネシアへ引き渡すことを拒否し、1970年までの植民地撤退計画を進める中で、この地域を独立へと導くための「パプア化」政策を推進しました。これに伴い、パプア人の自治能力育成や、防衛のためのパプア義勇軍結成などが進められ、不安定な情勢が続きました。

1961年2月、オランダは将来の国家体制構築を見据え、ニューギニア議会を創設するための選挙を実施する計画を発表します。この議会は同年中に設立され、将来の国家に向けた政治的な準備を進めるため、全国委員会が設置されました。そして1961年12月1日、議会ビルで、国旗に準じるものと位置づけられた明けの明星旗、国歌「我が地パプア」、国章、標語の制定式が行われ、新しい国名として「西パプア」が提案されました。オランダ政府は、旗については国旗ではなく地域旗として承認するという留保を付けつつも、これらの動きを概ね承認しました。

しかし、インドネシアはオランダのパプア地域分離独立に向けた動きに強く反発。1961年12月19日には、インドネシアが西パプアへの侵攻を開始し、この地域を占領します。これがパプア紛争の発端となりました。紛争の解決を図るため、アメリカ合衆国の調停により、1962年8月15日にニューヨーク合意が締結されます。この合意に基づき、ニューギニア島西部には国際連合保安隊が派遣され、暫定的な国際管理下に置かれた後、1963年5月1日にインドネシアへの統治移管が実行されました。合意では、1969年までに地域の将来的な統治形態を住民の自己決定に委ねることが定められていましたが、インドネシアは1969年に「自由選択権の行使」と称する手続きを行いました。この手続きでは、インドネシアが選んだ約1,000人の代表者による投票が行われ、彼らの「全員合意」をもってニューギニア島西部がインドネシアへ併合されました。この限定的な投票形式はその正当性に疑問が呈され、現在まで続く独立運動や紛争の大きな原因となりました。

その後の独立運動と国際的支援

インドネシアによる併合後も、独立を求める声は止みませんでした。1971年7月1日には、独立運動組織である自由パプア運動（Organisasi Papua Merdeka, OPM）の指導者の一人であったセス・ジェフェス・ロームコレムが、改めて独立共和国としての西パプア（パプア・バラト）樹立を宣言し、明けの明星旗を再び国旗として掲げました。その後も、1988年には西メラネシア共和国、2011年には西パプア連邦共和国といった異なる名称や象徴を用いた独立宣言の試みが行われています。

長年の独立運動は様々な組織に分かれて活動してきましたが、2014年12月には主要な運動組織を統合する形で西パプア統一解放運動（ULMWP）が結成され、運動の統一が図られています。一方で、OPMの一部武装派（西パプア国土解放軍 TPN-OPM）はインドネシア治安部隊との衝突を繰り返しており、2017年には一時的に鉱山周辺地域を支配下に置く事件も発生しています。

国際的には、一部の国や地域が西パプアの独立運動に支持を表明しています。特にメラネシア地域では関心が高く、バヌアツやソロモン諸島がその独立を支援する姿勢を示しています。バヌアツは2010年に、西パプアの独立達成を外交政策として支援することを公式に宣言する法案「Wantok Blong Yumi Bill」を可決しました。また、これらの国々は、西パプアがメラネシア先鋒グループや太平洋諸島フォーラムといった地域協力機構において、オブザーバー資格を得られるよう提案を行っています。

現在もニューギニア島西部はインドネシアの一部として統治されていますが、独立を求める住民による運動は続いており、この地域の将来は国際社会の注目を集める問題の一つとなっています。

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