西文雄

西文雄：柔道界の異端児、その生涯と柔道哲学

西文雄（にし ふみお）は、明治30年（1897年）に東京府青梅市に生まれ、昭和65年（1990年）に93歳で没した柔道家です。講道館柔道8段、大日本武徳会範士という称号を持ちながらも、晩年は柔道界と距離を置き、独自の道を歩みました。

黎明期の柔道との出会い

旧制浜松中学校在学中に戸田順吉に師事し、柔道の道へ。下富坂時代の講道館では嘉納治五郎から直接指導を受け、大化会の一員として武徳会大会で団体優勝を果たします。着実に昇段を重ね、当時有段者が少なかった時代に、その名を高めました。

福岡での指導と選手としての活躍

福井県での指導を経て、大正8年（1919年）に福岡県立中学修猷館の柔道教師に就任。選手としても、九州と東京学生連合との対抗試合に出場するなど活躍しました。特に、熊本・福岡対県柔道大会では、大将としてチームを勝利に導き、その実力を示しました。

福岡・満州対抗試合の開催にも尽力し、自らも大将として出場。指導者としては、修猷館をはじめ、西南学院、九州大学など多くの学校で後進を育成しました。田中末吉など、優秀な弟子を輩出しています。また、内田良平が創立した天真館道場で師範を務め、講道館柔道の普及に貢献しました。

全日本選士権獲得と競技からの引退

昭和10年（1935年）の全日本選士権大会では、専門成年前期の部で見事優勝。この大会では、弟子である田中末吉も準優勝を果たし、師弟揃っての快挙となりました。この勝利を最後に、西は選手生活に終止符を打ちました。

柔道界への貢献と批判

西は、全日本東西対抗大会の開催にも尽力。この大会は、当時の柔道家にとって全日本選手権大会と並ぶ最高の舞台となりました。長年の柔道界への貢献が認められ、大日本武徳会柔道範士号を受号、講道館8段に昇段するなど、その存在感を示しました。

しかし、戦後の柔道が競技化していくにつれて、西は強い危機感を抱くようになります。特に、体格に頼った柔道や、基本を無視した技術に対して批判的でした。柔道の変質を嘆き、「柔道が獣道になりさがってしまった」とまで言い切りました。

講道館との決別と晩年

真正柔道の復活を訴え続けた西でしたが、講道館柔道に失望し、ついに講道館との絶縁を宣言。8段位を返上し、柔道界から distance を置きました。以後は書道と写経に没頭し、静かな晩年を過ごしました。

人物像と評価

西は、身長163cm・体重70kgと小柄ながらも、力に頼らない柔の理に適った技を追求しました。若い頃は釣込腰や大外刈、寝技を得意とし、晩年は送足払や膝車などの足技に冴えを見せました。また、講道館きっての硬骨漢としても知られていました。

柔道評論家のくろだたけしは、西について「とっくに9段になるべき人」と評し、その才能が正当に評価されなかったことを惜しみました。

西文雄は、時代の変化の中で、自身の理想とする柔道を追求し続けた孤高の柔道家でした。その生き方は、現代の柔道界にも多くの示唆を与えてくれます。

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