西沢権一郎

西沢権一郎（にしざわ ごんいちろう、1906年12月5日 - 1980年12月31日）は、日本の官僚、政治家、そして随筆家としても知られる人物です。特に長野県知事として、異例ともいえる6期20年の長きにわたり県政を担い、戦後の長野県の発展に大きな足跡を残しました。

1906年（明治39年）12月5日、現在の長野県小川村にあたる上水内郡南小川村で、養蚕業を営む西澤家に誕生しました。地元の南小川尋常高等小学校（現在の小川村立小川小学校）、長野県上水内郡西部農学校（現在の長野県長野西高等学校中条校）を経て、1927年（昭和2年）に東京高等蚕糸学校（現在の東京農工大学工学部）を卒業しました。当初は母校である蚕糸学校で教鞭をとります。

しかし、官界への志を抱き、1933年（昭和8年）に高等文官試験に合格して内務省に入省しました。官僚としてキャリアを積む中で、長野県でも要職を歴任し、県政の実情に通じるようになります。1955年（昭和30年）には、長野県の副知事に就任し、知事林虎雄を支え、県政の中枢で手腕を発揮しました。

1959年（昭和34年）、林虎雄知事の辞任に伴う長野県知事選挙に立候補しました。前任の知事は特定の政党から公認を得ていましたが、西沢氏は特定の政党の公認を受けない無党派での出馬を選択。しかし、これは孤立を意味するものではなく、日本共産党を除く県内の主要な政治会派すべてからの推薦を受け、幅広い支持基盤を形成して当選を果たしました。これにより、民選としては2代目の長野県知事に就任します。この無党派で主要会派の推薦を受けるという選挙スタイルはその後も踏襲され、1979年（昭和54年）までの6期連続当選へとつながり、実に20年もの間、県政のトップを務めました。

この長期政権の特徴として、「県会オール与党・トロイカ体制」と呼ばれる独特の政治運営スタイルを確立した点が挙げられます。これは、県議会において主要な会派がすべて知事与党となることで、政策決定や予算編成を円滑に進めることを目指したものです。有力会派である3つの会派が中心となって県政を主導したことから「トロイカ体制」とも称されました。確かに、この体制は県政の安定運営や迅速な政策遂行には寄与しましたが、同時に、有力会派による談合や、県議会におけるチェック機能の形骸化、新たな政策の推進力の低下といった政治的停滞を招いたとの批判も根強く、その功罪については現在も評価が分かれています。

知事在任中には、様々な出来事がありました。1972年（昭和47年）には、長野県軽井沢町で発生したあさま山荘事件では、事件現場で捜査にあたる警察官たちに大量の煙草と飴を差し入れるという、現場を気遣う一面も見せました。

1980年（昭和55年）4月15日、脳溢血で倒れ、病状の悪化から同年9月には病院から辞表を提出し、知事を辞任しました。知事退任直後の1980年10月に開局したテレビ信州の開局にも尽力するなど、晩年まで地域への関心は尽きませんでした。そして、同年12月31日、74歳でその生涯を閉じました。

政治家としての活動の傍ら、随筆家としても多くの著作を残しており、その豊かな筆致は多くの読者に親しまれました。また、長女は自治官僚の小林實と結婚しています。

西沢権一郎氏は、長野県の歴史において、6期という異例の長期にわたり県政を担い、「オール与党」体制という独特のスタイルを確立した政治家として、今なお記憶される人物です。その功績と批判は、長野県政を語る上で避けて通れないテーマとなっています。

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