西田シャトナー

大阪府出身の西田シャトナーは、1965年生まれの劇作家、演出家、俳優であり、国内外で評価される折り紙作家としても知られる多才な表現者です。その名はSFドラマ「スタートレック」のジェームズ・T・カーク役、ウィリアム・シャトナーに由来しています。

彼のキャリアは、神戸大学在学中に結成した劇団「惑星ピスタチオ」で始まりました。座付作家・演出家として、また俳優として、この劇団の中心的存在となります。惑星ピスタチオでは「実験と娯楽の融合」を旗印に掲げ、演劇における独自の表現手法を次々と開発し、それぞれにユニークな名称を与えました。特筆すべきは、小道具に頼らず、俳優の肉体表現と詳細な台詞で場面や心情を描写する「パワーマイム」、そして一人の俳優が次々と異なる役柄を演じ分ける「スイッチプレイ」です。さらに、「カメラワーク演出」と名付けられた手法は、舞台上にカメラが移動しているかのような視覚的な奥行きやダイナミズムを生み出し、観客に革新的な体験をもたらしました。特に1993年初演の『破壊ランナー』は、音速で疾走する近未来レースを肉体表現のみで描き出し、西田氏の演出スタイルを象徴する代表作となりました。スイッチプレイは人間にとどまらず、無生物や現象までをも俳優が演じることで、演劇の可能性を大きく広げました。これらの革新的な描写的演技は、後に観客や後進から改めて「パワーマイム」と総称されるようになります。

惑星ピスタチオの解散と前後して、西田氏は即興演劇シリーズ「シャトナー研」をスタートさせます。これはストーリーの根幹は決めつつ、セリフは俳優の即興に委ねるというスタイルで、自身も俳優として参加。音楽を生演奏で行うのも特徴でした。このシリーズから派生した、脚本を即興劇に変換するスタイルの「シャトナー研EX」による『サムライヘルメッツ』は賞も受賞しています。

2012年からは、渡辺航氏の漫画を原作とした舞台『弱虫ペダル』シリーズの脚本・演出を手がけ、その評価を不動のものとしました。自転車ロードレースという、演劇化が困難と思われた題材に対し、西田氏はハンドルのみを持った俳優たちが「カメラワーク演出」やパワーマイムを駆使して疾走感やレースのドラマを表現。観客は「自転車が見える」と評し、その独創的な演出と俳優たちの熱演が高く評価されました。この成功は、漫画原作の舞台に実験的な演出家を起用する流れを生み出し、「2.5次元ミュージカル」あるいは「2.5次元演劇」と呼ばれる新たな潮流の重要な先駆け、または立役者の一人として位置づけられています。ただし、西田氏自身は、この潮流の源流は「ミュージカル・テニスの王子様」にあると言及しています。

『弱虫ペダル』以降も、彼は漫画原作の舞台化に意欲的に取り組みます。ラグビー漫画『ALL OUT!! THE STAGE』（2016年）では、俳優全員にボールを持たせ、パントマイムでパスワークを表現するという斬新な手法を採用し、日本を代表するマイム俳優、いいむろなおき氏の指導も仰いでリアリティあふれる試合シーンを創出。さらに、マイナー競技であるカバディを題材にした『灼熱カバディ』（2023年）でも脚本監修・演出として参加し、原作の持つ躍動感を演劇へと昇華させ、原作ファンやカバディプレイヤーからも高い評価を得ました。

自身のオリジナル作品を発表するプロジェクト「SHATNER of WONDER」や、フェイクコメディシリーズ「ムッシュ・モウソワール」などを立ち上げ、活動の幅を広げる一方、海外戯曲の翻訳・演出や、人気アニメシリーズ「ルパン三世」の脚本執筆にも携わるなど、その表現活動は演劇の枠を超えています。

演劇と並行して、西田氏は折り紙作家としても長く活動しています。その才能は小学生の頃から注目され、日本折紙協会の会誌やサブカルチャー誌『ファンロード』にも作品が掲載されるなど、演劇活動に先んじたキャリアを持っています。生物をモチーフにした、精密かつ躍動感あふれる作風で知られ、国内外の折り紙愛好家から高く評価されています。大学を中退した理由の一つが、卒業制作で折り紙を扱おうとした際に教授に芸術として認められなかったことだというエピソードも残っています。現在は公式サイトで作品を発表するほか、個展開催やメディア出演も多数。2023年にはウィーンの美術館で開催された「FALTEN展」に作品が出展され、海外での評価も高まっています。

西田シャトナーは、演劇における独自の表現手法の追求と革新的な演出によって、日本の舞台芸術、特に漫画原作舞台の進化に大きく貢献しました。同時に、折り紙作家としても確固たる地位を築いており、その多角的な視点と尽きることのない探求心は、今後も様々な分野で新たな表現を生み出し続けることでしょう。

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