西郷局

西郷局：徳川家康の側室、そして謎多き生涯

西郷局（さいごうのつぼね）は、戦国時代から安土桃山時代にかけて生きた女性です。天文21年（1552年）もしくは永禄4年（1561年）の生まれとされ、天正17年（1589年）に28歳（もしくは30歳）で亡くなりました。通説では、父を戸塚忠春、母を西郷正勝の娘とする説が有力ですが、その出自には諸説あり、確証を得るには至っていません。幼少期、父と兄を亡くし、母と祖父である西郷正勝に育てられたと伝えられています。

その後、西郷義勝と結婚し、一男一女をもうけましたが、元亀2年（1571年）の竹広合戦で義勝は戦死します。夫の死後、彼女は母のもとへ身を寄せ、天正6年（1578年）、家康に見初められ、浜松へ連れ帰られました。家康の側室となり、西郷局と称するようになりました。この際、西郷清員もしくは清貞の養女となったとされています。

天正7年（1579年）には徳川秀忠を、翌年には松平忠吉を産み、家康の後継者となる秀忠の生母として幕府の礎を築く上で重要な役割を果たしました。しかし、その生涯は謎に満ちています。天正17年（1589年）の死因については、病死とする説と、野田菅沼助兵とのトラブルに巻き込まれたとする説、家康の家臣に殺害されたとする説など、複数の説が存在し、いまだ確定していません。

西郷局を取り巻く諸説と史料の矛盾

西郷局の生涯については、『寛政重修諸家譜』や『以貴小伝』といった史料が基となっていますが、これらの史料にも矛盾や不確実な部分が見られます。例えば、戸塚忠春が天文23年（1554年）に死亡したとする記録は、西郷局の出生時期と矛盾します。また、夫である西郷義勝が死亡した元亀2年（1571年）に、西郷局が既に一男一女をもうけていたとする記述も、年齢的に疑問が残ります。

さらに、『寛政重修諸家譜』と『柳営婦女伝系』では、西郷局の出自に関する記述が異なっており、出自に関する明確な結論は出ていません。これらの史料の信憑性や、記述の矛盾点などを考慮すると、西郷局の生涯については、いくつかの推測や仮説を立てることはできても、完全に解明されているとは言えません。

家康正室説と「殿」の呼称

西郷局の死を報じた『家忠日記』には、彼女を「西郷殿」と呼んでいます。「殿」という呼称は、正室に対して用いられるものであり、側室に対しては「局」を用いるのが一般的です。このことから、西郷局は家康の正室として扱われていたとする説が出ています。家康の最初の正室である築山殿が死去した後に、西郷局が正室の地位に引き上げられた可能性も考えられます。しかし、この説は、後世の史料に依存する部分があり、同時代の史料には「西郷局」の呼称が多く見られます。

人物像と逸話

西郷局は、美人で温和な性格だったと伝えられています。家康からの信頼も厚く、周囲からも好かれていたようです。特に盲目の女性に対して深い同情心を抱き、衣服や食事を与えて生活を支えていたという逸話も残っています。彼女の死後、多くの盲目の女性が寺で彼女を弔ったという記録が残っており、その人となりを知る上で貴重な情報です。また、彼女の従姉妹が記した文書『お国文書』には、家康から拝領した屋敷に関する記述が含まれ、西郷局の生活を知る手がかりとなっています。

名前と登場作品

西郷局の初名については、複数の史料で異なる表記が見られ、「お愛」「お相」「お桐」など諸説あります。どれが正しいのかは、現在も議論が続いています。西郷局は、数々の小説やドラマ、大河ドラマにも登場しており、その生涯は現代においても関心を集めています。

まとめ

西郷局は、徳川秀忠を生んだ家康の側室として、歴史に大きな足跡を残しました。しかし、その生涯には謎が多く残されており、出自、正室説、死因など、様々な論争が続いています。史料の矛盾や不確実性を踏まえつつ、今後さらなる研究によって、西郷局像がより明確になっていくことが期待されます。今後の研究によって、さらに詳細な事実が明らかになる可能性があります。

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