親長卿記

『親長卿記』は、室町時代後期の公家である甘露寺親長によって著された日記です。この日記は、文明2年（1470年）から明応7年（1499年）までの約30年間にわたる記録が現存しており、当時の社会情勢や政治、経済の動向を詳細に知ることができる貴重な史料として高く評価されています。特に、応仁の乱（1467年）によって失われた部分があるものの、現存する部分は、乱後の混乱期における社会の様子を克明に伝えています。日記の冒頭部分には、応仁の乱によって以前の記録が焼失したことが記されています。

甘露寺親長は、嘉吉3年（1443年）に発生した禁闕の変で、自ら刀を抜いて南朝の遺臣に応戦したという武勇伝を持つ人物です。また、学識豊かで有職故実にも精通しており、後花園天皇と後土御門天皇の二代にわたり、信頼の厚い存在でした。賀茂伝奏を長く務めたことからも、その実力が窺えます。

『親長卿記』には、甘露寺親長の多岐にわたる経験と知識が反映されています。例えば、上下賀茂神社間の争いに関する記述や、中世最後の大嘗会となった文正元年（1466年）の大嘗会に関する詳細な記録は、当時の宮廷社会の儀式や慣習を知る上で非常に重要です。さらに、公家と室町幕府の関係、応仁の乱の経緯、頻発した土一揆の様子など、社会の様々な側面が詳細に記録されており、当時の社会情勢を立体的に把握することができます。また、公家の日々の生活についても詳細に描写されており、当時の人々の生活ぶりを知る上でも貴重な資料となっています。

日記の終盤には、「これ以後は書き記さず、たびたび勅問の事などこれあらば、少々注す」という記述があり、明応6年（1497年）以降は、記事が簡潔になっていることがわかります。しかし、その記述からも、当時の政治状況や社会の動向を垣間見ることができます。また、いくつかの別記も現存しており、日記本文を補完する役割を果たしています。

『親長卿記』は、『増補史料大成』に収録されており、広く研究者に利用されています。この日記は、単なる記録としてだけでなく、当時の社会や文化を理解するための貴重な一次資料として、歴史研究に不可欠な存在です。甘露寺親長の個人的な記録でありながら、時代を映し出す鏡のような役割を果たしており、当時の人々の生活、政治、社会に対する理解を深めることができるでしょう。この日記を通じて、室町時代の激動期を生き抜いた人々の息吹を肌で感じることができます。

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