禁闕の変

禁闕の変（きんけつのへん）とは

禁闕の変は、室町時代の嘉吉3年（1443年）に京都で発生した後花園天皇の皇居（禁闕）に対する襲撃事件です。吉野朝廷（南朝）の復興を掲げる勢力、いわゆる後南朝が御所に侵入し、三種の神器のうち宝剣と神璽を奪って比叡山へと逃れましたが、数日以内に鎮圧されました。宝剣は後に奪還されたものの、神璽は後南朝の手に渡ったままとなり、長禄元年（1457年）の長禄の変で赤松氏によって奪還されるまで、15年もの間、後南朝の支配下に置かれることとなりました。

事件の背景

南北朝時代、後醍醐天皇によって開かれた南朝（大覚寺統）は、足利義満の時代に名目上は解消されました。しかし、室町幕府が和約を十分に履行しなかったため、南朝の後胤を奉じる後南朝勢力は、室町時代を通じて反幕府勢力と連携し活動を継続しました。一方、北朝（持明院統）側では、後小松天皇の直系が途絶え、伏見宮家から後花園天皇が迎えられるという状況が生じていました。

また、室町幕府では、中央集権化を目指した6代将軍足利義教が、嘉吉元年に守護の赤松満祐によって暗殺されるという大乱（嘉吉の乱）が発生しました。この事件は鎮圧されたものの、社会には不安定な空気が漂っていました。

森茂暁は、禁闕の変の予兆として、以下の二点を指摘しています。

嘉吉3年2月、元南朝の皇族であった小倉宮聖承が謀反を企てているという噂が広まりました。また、楠木氏の子孫が「南朝余流」を掲げて反乱を計画しているという情報も入りました。
嘉吉2年、7代将軍となった足利義勝が、翌年にわずか10歳で急死しました。将軍の相次ぐ死は政治に大きな混乱をもたらし、幕府の権威が低下しました。

事件の発生と経過

こうした状況下、嘉吉3年9月23日、後南朝の軍勢が挙兵しました。神泉苑には200～300の兵が集結しましたが、その装備はまちまちでした。

変の主な首謀者・実行犯は以下の通りです。

源尊秀: 総大将。後鳥羽上皇の子孫を自称する人物ですが、出自や目的は不明です。
金蔵主: 南朝の皇族。万寿寺の禅僧で、後亀山院の息子とも護聖院宮の息子とも言われています。
通蔵主: 金蔵主の兄。相国寺常徳院の禅僧です。
日野有光: 室町幕府の重鎮。過去に足利将軍家から冷遇されたことへの遺恨があったと言われています。
* 日野資親: 有光の息子で、公卿。

後南朝軍は事前に、室町殿を襲撃するという偽情報を流し、幕府軍を引きつけました。そして、手薄になった土御門東洞院殿を襲撃し、清涼殿に侵入して火を放ちました。公家らが応戦しましたが、後南朝軍は宝剣と神璽を奪い去りました。後花園天皇は近衛邸に避難しました。

後南朝軍は比叡山に逃れ立て篭もりましたが、後花園天皇の追討令を受け、幕府軍や比叡山の僧兵によって鎮圧されました。金蔵主と日野有光はこの戦いで討たれました。

事件の影響

この事件は京都に大きな衝撃を与え、多くの日記に記録されました。幕府は事件に関与した者を処刑または流罪に処しました。しかし、総大将である源尊秀の消息は不明です。

事件後、奪われた神器のうち宝剣は清水寺で発見され朝廷に返還されましたが、その経緯は曖昧です。神璽は後南朝のもとに留まり続け、長禄の変で奪還されるまで北朝の手に戻ることはありませんでした。

日野氏のような有力者が後南朝に与したことは、幕府内に憶測を呼びました。この事件は、単なる小規模な戦闘ではなく、政界に大きな影響を与えた事件として認識されています。事件後、神器の警備は以前よりも厳重になりました。

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