観光人類学

観光人類学

観光人類学は、文化人類学の視点から人間の観光行動を研究する学問分野です。現代社会において観光は非常に重要な産業であり、人々の生活に深く根ざしています。そのため、観光に関する研究は多岐にわたり、活発に進められています。

歴史

観光人類学は比較的新しい分野であり、当初は人類学の研究対象としてあまり注目されていませんでした。その背景には、以下のような理由があったとされています。

観光は余暇活動であり、研究に値しないという認識があった。
人類学者自身が観光客のような視点で文化を観察していたため、自らを観光客と同一視されることを避けた。
伝統文化を重視する人類学者は、近代的な観光に魅力を感じなかった。

しかし、1974年にアメリカ人類学会で観光に関するシンポジウムが開催されたことをきっかけに、観光人類学が学問分野として確立しました。このシンポジウムの内容は、後にバレーン・L・スミスによって論文集『Hosts and Guests: the Anthropology of Tourism（ホストとゲスト）』としてまとめられました。この論文集では、観光客を受け入れる「ホスト」と観光に訪れる「ゲスト」の関係性について論じられ、観光がホストにもたらす有益な側面と同時に、観光客増加による負担増などの負の側面も指摘されています。

この論文集の刊行後、ヨーロッパを中心に観光研究が盛んになり、観光人類学の研究も発展しました。

観光現象

観光現象の起源は古く、生物学的・生態学的な移動欲求や、大規模な物流・文化交流にまで遡ることができます。現代の観光現象は、交通手段の発達による旅行や滞在、観光を通じた交流など、移動と人間の心理的・医学的な欲求が複雑に絡み合って生じています。観光人類学は、これらの現象を包括的に研究する学問分野であり、その研究対象は非常に広範にわたります。

広義には、観光人類学は、移動現象、大規模な物流、文化的還流などを含む、観光に関わるすべての現象を研究対象としています。

参考文献

鈴木涼太郎「文化論的転回と日本における観光人類学 : 観光／文化／人類学のはざまからの視点」『観光学評論』第1巻第2号、観光学術学会、2013年、159-172頁、doi:10.32170/tourismstudies.1.2_159
池田光穂「観光研究／観光人類学」
李良姫「観光人類学研究動向--観光と文化、ホストとゲストを中心に」『アジア社会文化研究』第1号、アジア社会文化研究会、2000年3月、55-65頁、doi:10.15027/23286
* 渡部瑞希「観光人類学における「ホストとゲスト」の相互関係」『くにたち人類学研究』第1巻、くにたち人類学会、2006年、39-54頁

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