許世英

許世英：清末から中華民国時代を駆け抜けた政治家外交官の生涯

許世英(きょ せいえい、字：俊人、静仁)は、清朝末期から中華民国時代にかけて活躍した、中国を代表する政治家にして外交官です。安徽派に属し、北京政府においては要職を歴任、国民政府においては対日外交の最前線に立ちました。その生涯は、激動の中国近代史を象徴するものであり、複雑で興味深いものです。

清末のキャリア：地方官僚から中央へと上り詰める

裕福な地主の家に生まれた許世英は、1891年、秀才に合格。その後、官吏登用試験に首席合格を果たし、刑部（司法省に相当）でキャリアをスタートさせます。四川省などでの地方官僚経験を経て、着実に官位を上げていきました。1905年には、北京外城巡警総庁行政処検事に就任。1907年には東三省総督徐世昌に抜擢され、東三省での司法機構創設準備に携わりました。この頃、日本の外交官と接点を持つようになります。1910年には欧州視察を行い、司法・監獄制度の調査研究に尽力しました。1911年、山西布政使に任命されますが、まもなく袁世凱支持を表明し、宣統帝の退位を促す文書に署名しました。

安徽派の中枢：司法長官から国務総理へ

1912年、中華民国成立後、袁世凱により大理院院長に任命。その後、陸徴祥内閣、趙秉鈞内閣、段祺瑞臨時内閣において司法総長を務めました。国民共進会に参加し、のちに国民党に合流するものの、宋教仁暗殺事件の際には国民党員でありながら司法総長として難しい立場に立たされ、革命派からの激しい批判にさらされました。その後、地方官僚を転々としたのち、袁世凱死後、安徽派の段祺瑞と連携を強め、1917年には内務総長、交通総長を歴任します。しかし、黎元洪との対立により一時逮捕されるなど、激動の政治情勢の中を生き抜きました。1921年には安徽省長に就任するも、軍縮問題で失脚。その後、航空署督弁などを務めました。1924年には段祺瑞の命を受け、孫文と会見し、直隷派討伐を画策しました。北京政変後、善後会議秘書長を経て、1925年12月、ついに国務院総理に就任します。しかし、国民党との関係構築に失敗し、翌年2月に辞任、段祺瑞とともに上海に逃れました。

国民政府時代：駐日大使としての日中交渉

国民政府成立後の1928年、許世英は賑務委員会委員長に就任し、社会救済事業に尽力。1936年には駐日大使に任命され、日中交渉の最前線に立ちます。盧溝橋事件後も、ドイツの仲介を得て日本側と交渉を続けましたが、南京陥落などの影響もあり、交渉は不調に終わりました。1938年に帰国後は、引き続き社会救済事業に従事し、中央救済準備金保管委員会委員長などを務め、日中戦争終結後の1947年には行政院政務委員兼蒙蔵委員会委員長に就任。1948年に辞任後、香港を経て台湾に移住し、総統府咨政を務めました。1964年、台北で死去しました。

結語

許世英の生涯は、清末から中華民国時代にかけての中国の激動期を生き抜いた、稀有な政治家・外交官の物語です。地方官僚から中央政界へと上り詰めた経歴、安徽派の中枢として活躍した政治家としての側面、そして駐日大使としての日中交渉への関与など、その多彩な活動は、現代に生きる我々に多くの示唆を与えてくれます。彼の功績と苦悩を理解することは、中国近代史をより深く理解することに繋がります。

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