訴因

訴因とは

訴因とは、刑事訴訟法上の重要な概念であり、起訴状の公訴事実欄に記載される犯罪の具体的な事実を指します。これは、特定の犯罪構成要件に当てはめて法律的に構成されたものであり、裁判所が審判を行う対象を限定する役割を果たします。

訴因の機能

訴因には大きく分けて二つの機能があります。

1. 審判対象画定機能: 裁判所に対し、審判の対象を明確に限定します。
2. 防御機能: 被告人に対し、防御の範囲を限定し、不意打ちを防ぎます。

判例では、審判対象の画定が主要な機能であり、防御機能はそれに付随するものと解釈されています。

訴因の特定

訴因は、犯罪構成要件事実、例えば実行行為や結果など、審判対象の画定に不可欠な事実を記載する必要があります。しかし、詳細すぎる記載は予断排除の原則に反するため、必要十分な範囲で特定されるべきです。

訴因変更の要否

訴因として記載された事実と異なる事実を認定するためには、原則として訴因の変更が必要となります。ただし、軽微な事実の変動や、訴因に含まれる事実の一部のみを認定する縮小認定の場合には、訴因変更は不要です。また、事実関係に相違がなければ、法律構成が変動しても訴因変更は必要ありません。

訴因変更が必要となる場合

犯罪の本質的事実と異なる事実を認定する場合
争点を明確にするために訴因に記載された非本質的事実と異なる事実を認定する場合（ただし、被告人にとって不意打ちでなく、かつ不利益でない場合は例外）

争点の顕在化

訴因に記載されていない非本質的事実であっても、被告人の不意打ちを防ぐために、争点として顕在化させる必要があります。これは、裁判官が検察官に立証を促したり、弁護人に防御を促したりすることで実現できます。

訴因変更の可否

検察官は、当初の訴因では有罪判決を得ることが困難な場合に、訴因の変更を求めることができます。しかし、変更は無制限に認められるわけではなく、刑事訴訟法第312条1項に定められた範囲内で行われなければなりません。

公訴事実の同一性

訴因変更が許されるのは、「公訴事実の同一性」を害しない範囲に限られます。この同一性の範囲については学説上の争いがありますが、公訴事実が単一であり、かつ犯罪を構成する事実関係の基本的部分が社会通念上同一である場合に、訴因変更が可能であるとする見解が有力です。

訴因変更命令

裁判所は、検察官が設定した訴因を逸脱して事実認定をすることができません。しかし、真実発見のため、裁判所は検察官に対し、訴因または罰条を追加・変更すべきことを命令できます（訴因変更命令）。

ただし、判例・通説では、この命令に形成力はないとされています。つまり、検察官が命令に従わない場合でも、訴因変更の効果は生じません。したがって、別の訴因であれば有罪認定が可能であっても、検察官が当初の訴因を維持する場合には、裁判所は無罪判決を下さざるを得ません。

まとめ

訴因は、刑事訴訟において審判対象を明確化し、被告人の防御権を保障する重要な概念です。訴因の特定、変更の要否、可否、そして訴因変更命令について正しく理解することは、適正な刑事裁判の実現に不可欠です。

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