認知的閉鎖

認知的閉鎖 (Cognitive Closure)

認知的閉鎖とは、イギリスの哲学者コリン・マッギンによって提唱された、意識のハード・プロブレムに対する一つの回答です。人間の認識能力には原理的な限界がある、という考え方を示しています。

概要

認知的閉鎖は、脳などの物理的な対象から、意識という主観的な経験がどのようにして生み出されるのかという問いに対し、人間の心が本質的に「閉鎖」されている可能性を指摘します。これは、単に科学的な知識不足を意味するのではなく、人間が意識の謎を解明する能力そのものを根本的に欠いているという主張です。

マッギンは、人間が哺乳類の一種として進化の過程で獲得した脳の構造に起因する制約により、意識の問題は解決不可能であると考えました。これは、猿が量子力学を理解できないのと同じように、人間には原理的に理解できない問題が存在するという立場です。

マッギン自身は、認知的閉鎖の概念を悲観的なものとは捉えていません。また、科学的な探求と相容れないとも考えていません。むしろ、ハード・プロブレムは人間にとって原理的に解決不可能であるからこそ、認知能力を超えようとする無益な試みを避けるべきだと主張しています。

このマッギンの主張に対して、ポール・チャーチランドらは、科学的なアプローチによって人間の心を解明できると反論しています。

DIME

マッギンは、哲学上の難問には特有のパターンがあると考えました。それは、問題に対する解答が以下の4つの立場の間を循環するというものです。

D: 還元主義
I: 二元論
M: 神秘主義
E: 消去主義

これらの立場をまとめてDIMEと名付け、時代や地域、研究者の立場によって、D→I→M→Eとループする傾向があると指摘しました。また、DとE、IとMは対立する立場として共闘関係になることが多いと述べています。しかし、マッギンはこれらの立場はいずれも誤りであるとし、超越論的自然主義（TN）の立場からCALM仮説を提唱しています。

CALM仮説

CALM仮説（CALM Conjecture）は、ある問題が人間に理解できない理由を説明するためのものです。CALMは、Combinatorial atomism with lawlike mapping（法則的な対応関係を伴う組み合わせ的原子論）の略であり、人間の思考は「対象とその対象間の関係」というモデルに合致する場合にのみ理解できる、という考え方を示しています。

この形式で捉えられない問題は、どれほど優秀な人々が長年考え続けても解決されないだろうとマッギンは主張します。その例として、意識、意味、自由意志といった哲学の古典的な問題を挙げています。

マッギンは、人間の理解力の限界を超えるためには、倫理的な問題を無視してでも、人間の身体をポストヒューマンに改造するしかないと主張しています。

参考文献

コリン・マッギン著、石川幹人、五十嵐靖博訳 『意識の＜神秘＞は解明できるか』 青土社 2001年 ISBN 4-7917-5902-8
McGinn, C. (1993). Problems in philosophy: The limits of inquiry. Blackwell. ISBN 1557864756

認知的閉鎖の概念を哲学全般に拡張した書籍。マッギン自身の立場を超越論的自然主義と定義しています。

関連項目

新神秘主義
自然主義的二元論
意識のハードプロブレム
心のモジュール性
イグノラムス・イグノラビムス
ポストヒューマン（人類進化）
パラドックス

外部リンク

* Cognitive Closure （英語） - PhilPapers - 「認知的閉鎖」の文献一覧。

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