説出世部

説出世部(せつしゅっせぶ)とは

説出世部は、部派仏教の中の一派であり、特に大乗仏教の影響を強く受けています。この派は、バーヴィヴェーカやヴィニータデーヴァなどの僧侶たちによって編纂された文献を通じて、その教義や特徴が知られています。もともと大衆部から分岐して生まれたこの部派は、地域的には北西部で栄えました。

語源

説出世部という名前は、サンスクリット語の「lokottara」から派生しており、「この世を超えた」という意味を持ちます。このことから、説出世部は超越的な教えに従う者たちを指すことになります。一方で、大衆部の他の部派も同じような超世俗的な教義を受け入れていたことが想像されています。

初期の歴史

説出世部は、一説部や鶏胤部と起源を同じくするという説が、文献『舎利弗問経』や『異部宗輪論』の中で記されています。大衆部は主にマガダ国周辺で発展しましたが、説出世部は北西部でその影響を強めました。ブッダの入滅から約200年後に、ラージャグリハの北方地域にて、多くの部派が大乗仏教の経典をどのように受け入れるかについて議論し、その結果、分裂が起きたとされています。この際、説出世部は大乗経典を仏の教えとして認める姿勢を示しました。

著作

説出世部の思想は、現存する数少ない文献である『マハーヴァストゥ』を通じて知ることができます。この作品はブッダの伝記であり、説出世部の特徴的な教えや律の拡充が記載されています。特に、『無量寿経』の編纂において説出世部が重要な役割を果たした可能性も指摘されています。この経典には、説出世部と共通する多くの要素が見られ、初期の翻訳は同地域で用いられていたガンダーリー語から行われたとされています。

教義

説出世部と大衆部には、大きな教義上の相違は存在しないとされていますが、その地理的な影響が異なる点が挙げられます。チベットのラマターラナータは、一説部、説出世部、鶏胤部の教義は本質的に同じだと見ています。さらに、当時の文献が示すように、大衆部の三部派はいくつかの共通のテーゼを有していました。

説出世部は、物事には自己と現象という二種類の空があると教えています。この二種類の空の考え方は、大乗仏教の特徴でもあります。また、ブッダは超越的存在であり、その肉体は表面的なものであると説かれ、阿羅漢は完全ではないことを強調しています。

菩薩と浄土

『マハーヴァストゥ』には、仏教が三つの重要な乗り物から成るという教義が含まれ、特に菩薩道に焦点を当てています。この作品に見られる十地の概念は、大乗仏教の『十地経』に似た側面を持ち、その名称には多少の違いがあります。さらに、説出世部は無数の浄土とそれらを導く仏陀の存在を進言し、各浄土には多くの解脱を目指す知覚能力のある存在が居ると考えられています。

仏陀の同等性

『マハーヴァストゥ』には、仏性についての詳細な説明があり、大乗仏典と類似点を持っています。特に、多くのデーヴァは、自らの見ている仏陀が独自であると信じ込んでいる描写があり、これは大乗仏典とも共通しています。

来世の仏陀

また、『マハーヴァストゥ』では、仏陀弥勒が将来の仏陀として頻繁に言及されており、ガウタマ・ブッダに続く1000人の仏陀の一人とされています。これは上座部と対照的な考え方であり、上座部では五人の仏陀が現れるとされています。これらの教義や歴史的な背景が、説出世部の特徴を際立たせています。

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