調伊企儺

調伊企儺（つきのいきな）は、生年不詳ながら欽明天皇23年（562年）7月に没したとされる、6世紀中頃の日本の武将です。吉士（きし）という姓を持ち、調吉士伊企儺（つきのきしいきな）とも呼ばれていました。大葉子の夫としても知られています。

『日本書紀』によると、調伊企儺は百済からの渡来人の血を引いているとされ、その勇猛さは特筆すべきものだったと伝えられています。欽明天皇23年（562年）、任那日本府の再興を目指し、紀男麻呂を大将軍、河辺瓊缶（かわべの にへ）を副将とする新羅征討軍に、伊企儺も従軍しました。しかし、副将の河辺瓊缶は戦術に疎く、降伏の意を示す白旗を誤って掲げたため、軍は混乱し、新羅軍の捕虜となってしまいます。この状況下で、勇猛な伊企儺は瓊缶が捕らえられた後も降伏勧告に応じず、新羅軍に抵抗を続けました。しかし、新羅軍の策略により、夫と共に従軍していた妻の大葉子もろとも捕らえられてしまいました。

捕虜となった伊企儺は、褌（はかま）を脱がされ、尻を日本の方に向けて晒すという屈辱的な扱いを受けました。さらに新羅の将からは、その状態で「日本の将よ、我が尻を食らえ」と強要されましたが、伊企儺はこれに屈することなく、「新羅の王よ、我が尻を食らえ」と叫び続けたと伝えられています。この不屈の抵抗により、伊企儺は拷問の末に殺害されてしまいました。また、伊企儺の遺児である舅子(おじこ)も、父の亡骸を抱いて息絶えたとされています。夫の死を知った大葉子は、夫を悼み、故郷日本を偲ぶ歌を詠んだと伝えられています。

この物語は、調伊企儺の勇猛さと不屈の精神を伝える一方で、その悲劇的な最期を描いています。ただし、この説話は後世に創作されたという見方もあり、史実としての正確性については議論の余地があることも指摘されています。しかし、調伊企儺の物語は、当時の国際情勢や武将たちの生き様を伝える貴重な資料として、後世に語り継がれています。

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