諸岡幸麿

諸岡幸麿（もろおか さちまろ、1883年（明治16年）11月24日 - 1940年（昭和15年）10月7日）は、作家であり、第一次世界大戦中に日本人カナダ軍義勇兵としてフランスの西部戦線で戦った人物です。その従軍体験は、彼が著した回想録『アラス戦線へ』に記され、貴重な歴史資料および戦争文学として知られています。

諸岡は1883年（明治16年）11月24日、佐賀藩士の家系に生まれました。母方の祖父は明治維新の元勲である副島種臣です。青山学院中等科で学び、1906年（明治39年）に卒業後、単身イギリス領カナダのバンクーバーへと移民しました。

1914年（大正3年）に第一次世界大戦が勃発すると、カナダにおける日本人移民社会は困難に直面します。当時、カナダを含む北米では日本人に対する根強い人種差別や排日運動が存在しました。バンクーバーの日本人会では、戦争への貢献を通じて日本人の地位向上を図ることが重要だと考え、在カナダの日本人に対し、カナダ軍への義勇兵としての入隊を呼びかけました。諸岡幸麿を含む約200名がこれに応じ、志願を決意しました。これは、大戦勃発時、日本とイギリスが日英同盟を結んでいたことも背景にありました。

諸岡はカナダ軍歩兵第175大隊に入隊しました。1916年（大正5年）にイギリスへ派遣され、訓練を受けます。翌1917年（大正6年）、フランス戦線へ渡り、カナダ軍歩兵第50大隊に転属となりました。この部隊は、西部戦線の激戦地、北フランスのアラス近郊に展開し、ヴィミー村近くのヴィミリッジ付近での戦闘に参加しました。同年3月11日、諸岡はビュリー・グルネー村で歩哨任務中に脚の付け根あたりを骨折し、野戦病院から後送されます。イギリスのネトレーにある赤十字病院へ移送され、療養中にイギリス国王ジョージ5世から親しく声をかけられるという名誉な体験をしました。

戦傷の回復が見込めなかったため、カナダのバンクーバーの病院を経て、諸岡はカナダ軍を除隊しました。1918年（大正7年）、彼は日本へ帰国しました。諸岡のカナダ軍での従軍は、帰国後も記憶されています。1920年（大正9年）、バンクーバーのスタンレーパークに建立された第一次世界大戦の日本人兵士記念塔には、従軍者として「S. Morooka」の名が刻まれています。

日本帰国後の1935年（昭和10年）、諸岡は自身の過酷な従軍体験を詳細に綴った回想録『アラス戦線へ』を刊行しました。この書には、当時の日本の政界の重要人物であった広田弘毅や、思想家の頭山満が題字を寄せており、刊行当時から大きな反響を呼びました。第一次世界大戦のフランス西部戦線で実際に戦闘に参加した日本人が、その体験をまとめた文学作品としては、この『アラス戦線へ』が唯一のものとされており、極めて稀有で貴重な戦争文学であり、当時の歴史を知る上で重要な史料としても高く評価されています。

家族構成

母方の祖父：副島種臣
叔父：副島道正
* 妹：セツ（納富介次郎の長男・磐一夫人）

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