謎のニセ札事件

1954年12月、日本で前代未聞のニセ札事件が発生しました。この事件は、東京都中央区新富町にある印刷所に、とある男が「宗教団体の寄付の領収書」と称して、奇妙な印刷物を発注したことから始まりました。

男は興信所の捜査部長を名乗り、1,000部もの印刷物を1部50円で依頼しました。その印刷物には、表面に「100」とアラビア数字が左右に配置され、その横には意味不明な文字が並んでいました。中央には旗を掲げた白い騎士が乗馬する姿が描かれ、裏面には昇る太陽とダビデの星が描かれていました。男は「警視庁の公安部長と親しく、了承も得ている」と説明し、印刷所側はその言葉を信じ、依頼通りに印刷物を完成させました。

しかし、出来上がった印刷物の異様さに不安を感じた印刷所は、数日後に警察に届け出ました。警視庁の捜査三課が調査を開始した結果、男が名乗った興信所は実在しないことが判明しました。警察は印刷所に残っていた印刷物を入手し、日本銀行に鑑定を依頼しましたが、「世界の紙幣に該当するものはない」との回答でした。また、ダビデの星が印刷されていたことから、イスラエル公使館にも問い合わせましたが、やはり「そのような紙幣は通用していない」との返答でした。

表面に書かれた文字についても、都内の研究機関や大学の言語学者に問い合わせましたが、どこの言語なのか判別できませんでした。警察は、この印刷物を国際刑事警察委員会（後のICPO、国際刑事警察機構）にも照会しましたが、その正体はついに解明されませんでした。この事件は、日本から同機構に持ち込まれた事件としては戦後初のものとなりました。

警視庁は、この印刷物がニセ札でなくても、「紙幣とまぎらわしいもの」として刑事事件として立件できるとの見解を示しました。事件発生後、「単なるイタズラ説」、「秘密結社が使うもの」、「映画や芝居に使うもの」など、さまざまな憶測が飛び交いましたが、印刷を依頼した男の身元も、印刷物がその後どうなったのかも、現在に至るまで全く不明です。この事件は、多くの謎を残したまま、未解決事件として扱われています。

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