講座制と学科目制

講座制・学科目制

「講座制」と「学科目制」は、戦後日本の新制大学において、学部や大学院の研究科内部の教員を組織する際に用いられてきた伝統的な仕組みです。

制度の成り立ちと変遷

これらの制度は、新制大学の基準を定めた「大学設置基準」（1956年制定）において、大学が教員を配置する際の組織形式として規定されました。講座は教育研究上の専門分野を、学科目は教育上の専門分野をそれぞれ単位とする組織と位置づけられていました。

その起源は古く、講座制は1893年に帝国大学で導入され、教授の研究責任を明確にするものでした。戦後の学制改革により、旧制大学の講座制と旧制専門学校などで用いられていた学科目制が並列して、新制大学の組織として採用されました。

特に国立大学では、かつて省令によって各大学の講座や学科目が定められ、それぞれの組織に教員定数や教育研究予算（積算校費）が割り振られるなど、制度運営が厳格でした。これは大学運営の根幹に関わる仕組みでしたが、運用の硬直性も指摘されました。公立・私立大学にはこのような国の規制は少なく、多くが学科目制を採用しました。

講座制・学科目制は、教員の所属だけでなく、学部生や大学院生の研究指導を行う研究室（教室）の単位ともなっていました。

運用の硬直性への対応として、1970年代以降、「新構想大学」の設立や、「大講座化」、「大学院重点化」といった改革が進められました。さらに、大学設置基準の改正により、2001年には講座・学科目以外の柔軟な組織編成が認められ、2006年には講座・学科目制の例示自体が削除され、より柔軟な組織編成の原則が規定されました。また、国立大学においては、積算校費の廃止や関連省令の廃止、法人化を経て、講座・学科目の設置や廃止は大学の判断に委ねられるようになっています。

現代における課題と批判

形式的には自由化が進んだものの、講座制は長年、特に若手研究者の独立した研究活動を阻害する要因として批判されてきました。講座の運営が教授中心であるため、若い研究者が独自のアイデアで研究を進めることが難しい状況が生じやすいのです。

この点は、欧米や中国で多くの若手研究者が独立した研究代表者（PI）として活躍する体制へと移行している現状と比べ、日本の研究力が停滞する一因とも指摘されています。ノーベル化学賞受賞者の野依良治氏は、旧来の講座制が若手の創造性や挑戦機会を奪い、新領域開拓の遅れを招いていると警鐘を鳴らしています。また、山本尚氏も、この制度が若い世代の科学技術への参入を阻害し、日本の研究発展を著しく損なってきたと厳しく批判し、若手研究者の早期独立が世界と伍していくために不可欠であると訴えています。

さらに、2007年の学校教育法改正では、准教授と助教にも独立した研究室運営ができることが明記されましたが、一部の先進的な大学を除いて、多くの大学ではこの法改正が実質的に履行されていない現状も指摘されています。

まとめ

講座制や学科目制は、日本の大学教員組織の歴史において重要な役割を果たしましたが、特に若手研究者の独立性を阻害するといった運用上の課題が指摘されてきました。制度自体は大きく変化し、形式的な自由度は高まりましたが、大学の研究力を高めるためには、若手研究者の育成と活躍を促す実質的な組織・運営改革が今後も求められています。

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