謝玖

謝玖（しゃ きゅう）

謝玖は、西晋の恵帝司馬衷の淑妃（側室）であり、激動の時代を生きた女性です。彼女の生涯は、美貌と皇室の権力闘争に翻弄された悲劇的なものでした。

生い立ちと入宮

謝玖は、元々は身分の低い屠殺業者の娘でした。しかし、類まれなる美貌を持っていたことから、武帝司馬炎に見出され後宮に入ることになります。当初は才人という低い位の妃嬪でしたが、彼女の人生はここから大きく動き始めます。

皇太子の教育係と懐妊

当時、皇太子であった司馬衷は、年齢の割に男女のことに疎く、武帝はその点を憂慮していました。そこで、謝玖は皇太子に性知識を教えるという重要な役割を与えられます。その結果、謝玖はほどなくして懐妊し、皇室の後継者を宿すことになったのです。

賈南風の嫉妬と秘密出産

しかし、謝玖は皇太子司馬衷の正室である賈南風の激しい嫉妬を恐れていました。賈南風は権勢欲が強く、自分の地位を脅かす可能性のある存在を排除しようとしていたからです。そのため、謝玖は密かに西宮（武帝の後宮）に戻り、咸寧4年（278年）に皇孫の司馬遹を出産しました。この秘密出産は、賈南風の目を欺くための苦肉の策だったと言えるでしょう。

淑妃への冊封と息子の不遇

その後、司馬衷が恵帝として即位すると、謝玖は淑妃（九嬪の一つ）に封ぜられました。しかし、彼女の息子である司馬遹は、嫡母である賈南風と非常に仲が悪く、常に警戒されていました。賈南風は司馬遹を疎ましく思い、様々な策略を巡らせて彼の地位を脅かそうとします。

悲劇的な最期

元康9年12月（西暦300年）、司馬遹は賈南風によって無実の謀反の罪を着せられ、庶人に落とされてしまいます。さらに、謝玖と司馬遹の側室であった蔣俊も、司馬遹の共謀者として罪に問われ、同年12月30日に杖殺刑に処されてしまいました。これは、賈南風による徹底的な粛清の一環であり、謝玖は息子の巻き添えを食う形で、無念の死を遂げたのです。

名誉回復

賈皇后が失脚した後、謝玖は改葬され、夫人（三夫人の一つ）の位を追贈されました。これは、彼女の無実が認められ、名誉が回復されたことを意味します。しかし、一度失われた命は二度と戻ることはありませんでした。

謝玖の生涯は、西晋時代の皇室における権力闘争の激しさと、それに翻弄された女性の悲劇を象徴しています。彼女の物語は、歴史の暗部に埋もれながらも、後世に語り継がれるべき教訓を含んでいると言えるでしょう。

参考文献

『謝玖進位淑妃詔』（元康5年）
『晋書』列伝 后妃上

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