司馬遹

司馬遹（しば いつ）：西晋、波乱の皇太子

司馬遹（しば いつ）は、西晋の第2代皇帝である恵帝、司馬衷（しば ちゅう）の長男として生まれました。字（あざな）は熙祖（きそ）。死後に愍懐太子（びんかいたいし）と諡（おくりな）されました。

幼少期の聡明さ

幼い頃から非常に聡明で、祖父である武帝、司馬炎（しば えん）に溺愛され、常にその傍にいました。逸話として、幼い司馬遹が父である司馬衷が自分の子であると気づかなかった際、祖父である武帝がそれを指摘したという話や、火事の際に皇帝の身を案じて暗闇に避難させた話などが残っています。また、豚小屋を見た際に「肥えているのに、なぜ殺さないのか」と進言し、武帝を感心させたという逸話もあります。

このような聡明さから、司馬遹は周囲から将来を嘱望され、武帝も彼に大きな期待を寄せていました。しかし、尚書衛瓘（えいかん）や少保和嶠（かきょう）からは、その軽薄な性質を懸念する声も上がっていました。

皇太子として

太熙元年（290年）に武帝が崩御し、父の司馬衷が恵帝として即位すると、司馬遹は皇太子に立てられました。東宮には多くの師傅（しふ）が配置され、彼の教育にあたりました。しかし、成長するにつれて学問を好まず、側近と遊んでばかりいるようになり、教導する者を尊敬しなくなりました。恵帝の皇后である賈南風（かなんふう）は司馬遹の存在を妬み、彼をさらに遊興に耽らせて評判を落とさせようと画策しました。

賈謐（かみつ）との対立

当時、外戚の賈氏が朝政を専断しており、特に賈南風の妹の子である賈謐（かみつ）は皇帝を凌ぐほどの権勢を誇っていました。司馬遹は賈謐が権勢を笠に着ていることを妬み、賈謐もまた司馬遹を恨んでいました。囲碁を打つ際にも、賈謐は司馬遹に遠慮することがなく、その無礼な態度を成都王司馬穎（しば えい）に叱責されたこともありました。また、賈南風は自分の娘を太子妃にしようと画策し、司馬遹と賈謐の対立はさらに深まりました。

廃位と最期

賈南風は司馬遹を陥れるために、様々な策略を巡らせました。恵帝を病に陥ったと偽って司馬遹を宮殿に呼び出し、酔わせて偽の詔を書かせ、恵帝と賈皇后を廃そうとした罪を着せました。そして、司馬遹を庶人に落とし、金墉城（きんようじょう）に幽閉しました。永康元年（300年）には、賈南風は司馬遹を毒殺するために宦官を送りました。司馬遹は毒を飲むことを拒否しましたが、最終的には薬杵（やくきね）で殴り殺されました。享年23歳でした。

死後の名誉回復

司馬遹の死後、司馬倫（しば りん）と孫秀（そんしゅう）が政変を起こして賈氏一派を誅殺すると、司馬遹殺害に加担した者たちも処刑されました。これにより、司馬遹の名誉は回復され、愍懐太子と諡（おくりな）されました。彼の息子たちも王に封じられましたが、後に司馬倫に殺害されたり、夭折したりして、司馬遹の血統は途絶えました。

司馬遹は、聡明でありながらも、その性格から周囲との軋轢を生み、最終的には悲劇的な最期を遂げた皇太子でした。彼の生涯は、西晋の政治的な混乱を象徴する出来事の一つとして、歴史に刻まれています。

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