識

識（しき）についての概要

「識」とは、仏教において意識や生命力、心、洞察力を指す用語です。この言葉は、対象を分析し区別して知覚する精神的な作用を表現しています。「識」は、「vi」（分析・分割）と「√jñā」（知）の組み合わせから成り立ち、対象を認識する際の思考過程を示しています。仏教の教えは、釈迦の時代から識に関する研究が進められ、多様な考え方や論証が展開されてきました。この論争の中で、大乗仏教は識による分析的な認識を重視するのではなく、直接的な認識である般若（プラジュニャー）を追求し、その結果として成仏することが重要だとしています。

パーリ仏典における識の位置づけ

パーリ経典では、識には主に三つの意味があります。1つ目は、感覚器官に関連する処（āyatana）からの派生であり、全体の経験の中の一部分を指します。2つ目は、苦しみにつながる五蘊の一部として捉えられます。3つ目は、縁起を構成する十二因縁の一環としての役割を果たすことです。アビダルマや後世の注釈書では、識は89種類の状態があるとされ、それぞれが異なる結果をもたらすと考えられています。

感覚器としての識

仏教においては、六入（六つの感覚器官）として目、耳、鼻、舌、体、心が挙げられます。これらはそれぞれ視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、精神に関連する作用を持ち、触（パッサ）を介して受（受け取り）に至り、最終的には渇愛（タンハー）へつながっていきます。

五蘊における識

人間は五蘊（ごうん）により構成されるとされ、その中でも識は識蘊（しきうん）として存在します。識は、物質的な要素である色、感情的な要素である受、思考の要素である想、意図を含む行の四つの作用を統一する役割を果たします。六根（六つの感覚器官）が六境（外界の対象）を認識することによって、物事を理解し識別する働きが生まれます。例えば、桜の花を見てそれを「桜」と認識する過程が挙げられます。また、「識住」（識の安定性）という概念では、色や受、想、行の関係を考察し、煩悩の生活が展開しているとされます。

十二因縁における識

十二因縁の中で「識」は無明や行に基づくもので、無明から行を経て識、名色、六処、触、受、愛、取、有、生、老死の順に続きます。これは因果関係の流れにおいて、識がどのように形成されるかを示しています。

アビダルマにおける識の理解

アビダルマ（阿毘達磨）では、識と心はほぼ同義として扱われ、心は心王、識は心としての働きを持つとされています。識の種類には、眼識、耳識、鼻識、舌識、身識、意識があり、それぞれ異なる対象を認識しますが、根本的な識の本質は一つであると考えられています。

部派による識の分類

多くの仏教の宗派では、それぞれの感覚器に対応する識が一つずつ存在すると考えられ、以下の六識が挙げられます。1. 眼識（cakkhu-vijñāna）、2. 耳識（sota-vijñāna）、3. 鼻識（ghāṇa-vijñāna）、4. 舌識（jivhā-vijñāna）、5. 身識（kāya-vijñāna）、6. 意識（mamo-vijnana）。前五識は現在の対象にのみ働くのに対し、意識は過去や未来の対象にも認識を広げる柔軟性があります。

六識と八識、九識

一部の宗派では、六識に加え末那識（まなしき）や阿頼耶識（あらやしき）を加え、八識と呼ぶこともあります。さらに、いくつかの大乗仏教派では、阿摩羅識（あまらしき）なる識を加え、九識の理解が展開されます。

密教の識

密教では、識はすべての存在に普遍するものであり、純粋な意識として理解されています。このように多様な見解が存在する中で、識という概念は仏教思想の中で深く掘り下げられてきました。

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