讃岐岩

サヌカイト（讃岐岩）

讃岐岩、広くはサヌカイトの名で知られるこの岩石は、学術的には古銅輝石安山岩という非常に緻密な組織を持つ火山岩の一種です。その名の由来ともなった香川県の坂出市国分台周辺をはじめ、遠く大阪府と奈良県の境に位置する二上山地域でも産出が見られます。

この岩石の成り立ちをたどると、約1400万年前に遡ります。当時、現在の瀬戸内海周辺地域では火山活動が活発に行われており、その噴火によって地表に流れ出した溶岩が長い時間をかけて冷え固まったことで、サヌカイトは形成されました。

サヌカイトの最大の特徴の一つは、その音響特性です。硬い物でたたくと、まるで金属が触れ合ったかのような、非常に高く澄んだ独特の音を発します。この性質から、古くから「カンカン石」という親しみやすい別名でも呼ばれています。

古代からの利用

サヌカイトは、人類の歴史において非常に古くから重要な資源として活用されてきました。その硬さと加工のしやすさから、古代の人々にとって優れた石器の材料となったのです。打製石器や磨製石器の素材として利用され、日々の生活や狩猟、労作業に欠かせない道具が生み出されました。

特筆すべきは、その流通範囲の広さです。サヌカイトの主要な産出地は限られているにも関わらず、石器の破片や加工された道具が、産出地から遙か遠く離れた場所の遺跡からも発見されています。これは、古代の人々がサヌカイトを求めて交易を行ったり、あるいは加工された石器が広い範囲に運ばれたりしたことを示す、貴重な考古学的な証拠となっています。石器材料として同様に珍重された黒曜石と同様に、サヌカイトは古代社会におけるネットワークや技術水準を知る手がかりを与えてくれる存在です。

現代における多様な活用

サヌカイトが発する独特の音色は、現代においても様々な形で利用されています。硬く澄んだ音は、かつては玄関の呼び鈴代わりに使われることもありました。現在では、その音響特性を最大限に活かした楽器として注目されています。

長さの異なるサヌカイトの石片を木琴のように並べ、専用のバチでたたくことで美しい音階を奏でる「石琴」は、サヌカイトを用いた代表的な楽器です。「サヌカイト」という名称自体が楽器名として使われることもあります。博物館などでは、この石琴が展示され、来館者が実際に音を出してサヌカイトの魅力を体感できるようになっています。また、プロの演奏家（例えば小松玲子氏など）によってコンサートで演奏されたり、香川県内の公共施設でBGMとしてその音色が流されたりと、音楽の世界でもその存在感を示しています。

学術的な評価と名称の由来

サヌカイトは、学術的にも高く評価されています。2007年には、日本の貴重な地質遺産を選定した「日本の地質百選」の一つ（No.096「サヌカイト」）に選ばれました。さらに2016年には、日本地質学会によって香川県の「県の石」にも選定されており、その地質学的な重要性や地域との結びつきが改めて認められています。

「サヌカイト」（Sanukite）という学術名称が付けられた経緯も興味深いものです。明治時代に日本政府に招かれ、各地の地質調査を行ったドイツの著名な地質学者ハインリッヒ・エドムント・ナウマンは、讃岐（現在の香川県）でこの特徴的な岩石を採取し、ドイツ本国に持ち帰りました。ナウマンの知人である地質学者のバインシェンクが、この岩石を詳細に研究し、「讃岐」にちなんで「Sanukite」と命名したとされています。

古代の石器から現代の楽器まで、サヌカイトは日本の歴史と文化、そして地質と深く関わるユニークな岩石と言えるでしょう。

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