谷口清八

谷口清八：佐賀が生んだ「鉄管王」の生涯

谷口清八（たにぐち せいはち）は、弘化2年（1845年）に生まれ、明治44年（1911年）に没した、佐賀県出身の鋳物師、実業家です。幼名は敬次郎。代々佐賀藩鍋島家に仕えた鋳物師、東谷口家11代目当主・谷口清左衛門でもあります。

生涯

清八は佐賀藩の鋳物師の家に生まれ、幼少の頃から家業に携わりました。明治維新後、1883年（明治16年）に谷口鉄工場を設立し、鉱山用機械の製造を開始しました。当時の佐賀県は石炭産業が活況を呈しており、鉱山機械の需要が非常に高まっていました。

1892年（明治25年）、清八は鋳鉄管の製造に成功します。その品質は外国製品を凌ぐほどであったと評価され、彼は「鉄管王」と呼ばれるようになりました。谷口鉄工場の事業は、九州の石炭産業の発展と共に大きく成長し、佐賀県内はもとより、西日本でも有数の製造工場へと発展しました。

清八の功績は広く認められ、1909年（明治42年）には緑綬褒章が授与されました。また、1910年（明治43年）には九州電気会社の設立者の一人となり、地域社会の発展にも貢献しました。しかし翌年、66歳でその生涯を閉じました。

谷口家の歴史

谷口家のルーツは、筑紫広門の子とされる筑紫紆介治門に遡ります。治門は沖田畷の戦いで龍造寺隆信を討ち取った川上忠堅と相打ちで死亡。その功により、子孫は龍造寺政家から「龍」の一字を与えられました。治門の幼子・龍清左衛門尉長光は、豊後国谷口邑で鍛冶の技術を習得し、筑前芦屋、筑後瀬高へと移り住み、技術を磨きました。

1629年（寛永6年）、龍清左衛門尉長光は佐賀藩主・鍋島勝茂に招かれ、佐賀六反田村に移り住み、谷口と改名しました。1637年（寛永14年）の島原の乱では、銅製大砲を鋳造し、以後、長崎警備を中心に数多くの大砲を製造しました。谷口家は、大砲鋳造のノウハウと伝統的なたたら製鉄の技術を提供し、佐賀藩の軍事力強化に大きく貢献しました。

1656年（明暦2年）、谷口家は藩の命令で刀鍛冶の橋本家と共に長瀬町に移り住み、手明鑓という士分格を与えられました。古くから大砲鋳造に携わってきた谷口家は、鋳物師の取りまとめ役となりました。1850年（嘉永3年）に反射炉が築造された際には、日本初の鉄製大砲鋳造に尽力しました。

谷口鉄工場（谷口鉄工所）

1883年（明治16年）5月、谷口清八は長瀬町に谷口鉄工場を設立し、鉱山用機械の製造を開始しました。佐賀県内の石炭産業の隆盛に伴い、工場は急速に発展し、鉱山用ポンプや鋳鉄管などの製造を手掛けるようになりました。蒸気ポンプの導入により石炭採掘が拡大すると、排水用の鋳鉄管の需要が急増し、谷口鉄工場の経営はさらに拡大しました。

明治40年代には、蒸気機鑵、水道鋳鉄管、軍用鉄器などを製作。1910年（明治43年）の第13回九州沖縄八県連合共進会では、出品製品が一等賞金牌を受賞しました。当時、工場の敷地は2100坪、従業員は400人を超え、販売経路は朝鮮や台湾にまで及んでいました。日露戦争時には砲弾の製造も行い、その利益を日本赤十字社に献納しました。

しかし、第一次世界大戦後の戦後恐慌により、鋳物用の印度銑鉄の価格が暴落し、製品の価格も大幅に下落したため、谷口鉄工場は大きな損失を被りました。さらに、1926年（大正15年）には主要取引先であった古賀銀行が休業し、昭和金融恐慌と鉄工業界の不況が追い打ちをかけ、1929年（昭和4年）に工場は閉鎖されました。

谷口家が残した功績

谷口家は、長きにわたり鋳物師として佐賀藩、そして日本の近代化に貢献しました。谷口清八が興した谷口鉄工場は、佐賀の石炭産業の発展に大きく貢献し、地域経済を支えました。また、谷口家が手掛けた数々の鋳造品は、今もなお文化財として各地に残っています。

谷口家が制作にかかわった主なもの

英彦山神社銅鳥居
銅造明神鳥居（大堂神社）
各地の寺の梵鐘、半鐘
鯱(の門)（佐賀城）
日蓮聖人銅像
亀山上皇銅像


これらの作品は、谷口家の卓越した技術と、佐賀の歴史を物語る貴重な遺産と言えるでしょう。

もう一度検索