豊原国周

豊原国周：奔放な天才絵師の生涯と芸術

豊原国周（とよはら くにちか、1835年～1900年）は、幕末から明治時代にかけて活躍した、個性的な浮世絵師です。型破りな生き様と、写実性と装飾性を融合させた独特の画風で知られ、明治期の演劇史において重要な役割を果たしました。

波乱万丈の生涯

国周は、江戸京橋で湯屋の主人を営む家に生まれました。幼少期はいたずら好きで近所迷惑をかけたという逸話も残されていますが、一方で祭礼の地口行灯制作を手伝うなど、絵への才能を早くから示していました。

その後、長谷川派の豊原周信に師事し、役者似顔絵や羽子板押絵の制作に携わります。羽子板絵の仕事を通じて培われた写実的な描写力は、後の国周の役者絵に大きな影響を与えました。 また、三代目歌川豊国にも師事し、役者絵の技術をさらに研鑽しました。

歌川豊国門下時代には「八十八」という号で作品を発表、その後、両師の名を合わせた「豊原国周」を画号としました。これは師への敬意の表れだったと言われています。

国周は、生涯を通じて大胆な行動を繰り返しました。なんと117回もの転居を経験し、葛飾北斎をも上回るという逸話も残っています。また、40人以上の妻を持ち、酒と遊びを愛し、金銭感覚もずさんだったと言われています。しかし、困っている人を放っておけない優しい一面もあったようです。このような奔放な性格は、彼の作品にも独特の自由奔放さを与えていると言えるでしょう。

役者絵の巨匠

明治2年（1869年）頃からは、役者似顔絵の大首絵を多数制作し、「役者絵の国周」として広く知られるようになりました。小島烏水からは「明治の写楽」と称賛されたほどです。国周の役者絵は、写実的な描写と、羽子板絵から受け継いだ装飾的な要素を巧みに融合させたものでした。特に、役者一人を3枚続の画面に描くという斬新な構図は、国周が確立したスタイルです。

国周は、伝統的な七分身像だけでなく、大胆な構図の作品にも挑戦しました。役者の表情や姿を細やかに捉えながら、華やかで個性あふれる作品を生み出しました。その作品は、明治時代の演劇史を伝える貴重な資料となっています。

写真術の流行を受け、ブロマイド制作にも挑戦しましたが、成功には至りませんでした。しかし、戊辰戦争後の不況にあえぐ歌舞伎界を、国周の役者絵が盛り上げたという見方もあります。

作品と後世への影響

国周の作品は数多く、役者絵のほかに美人画や風俗画なども残されています。代表的な作品としては、「柴田勝家」、「当世形浴衣揃　不破伴左衛門」、「市川団十郎演劇百番」などがあります。これらの作品は、現在も各地の美術館などに所蔵され、多くの人々に鑑賞されています。

国周には多くの門人がいましたが、広く知られたのは守川周重と楊洲周延の二人だけです。しかし、彼の画風や技法は、後の浮世絵師に大きな影響を与えたことは間違いありません。

豊原国周は、型破りで奔放な生涯を送った一方で、卓越した才能を持つ浮世絵師でした。彼の作品は、明治時代の風俗や演劇を知る上で貴重な資料であり、同時に、自由奔放な芸術家精神の輝きを私たちに伝えています。 彼の個性的な生き様と、時代を反映した芸術は、現代においてもなお、人々を魅了し続けています。

参考文献

藤懸静也『増訂浮世絵』雄山閣、1946年
吉田漱『浮世絵の見方事典』北辰堂、1987年
稲垣進一編『図説浮世絵入門』河出書房新社、1990年
永田生慈『資料による近代浮世絵事情』浮世絵太田記念美術館、1992年
小林忠監修 『浮世絵師列伝』 平凡社〈別冊太陽〉、2006年
国際浮世絵学会編『浮世絵大辞典』東京堂出版、2008年

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