豊津村 (千葉県)

豊津村（とよつむら）

千葉県安房郡にかつて存在した村。現在の千葉県館山市の中部に位置する地域にあたる。1889年（明治22年）に複数の村が合併して誕生したが、その歴史は比較的短く、発足から約25年後の1914年（大正3年）には隣接する館山町と合併し、自治体としては廃止された。

地理

旧豊津村の領域は、現在の館山市を構成する10地区のうち、「館山地区」（これは1914年の合併によって誕生した2代目の館山町域を指す）の西半分に相当する。東半分は初代の館山町域にあたる。現代の館山市の大字（町名）では、東から順に沼（ぬま）、宮城（みやぎ）、笠名（かさな）、大賀（おおか）が旧豊津村域に含まれる。

ただし、かつて沼地区の沖合にあった鷹ノ島（現在の高ノ島）や、大賀地区沖合の沖ノ島は、豊津村ではなく初代館山町の所属であった。これらの島々は大字としては現在も館山市大字館山に属している。

「豊津」という村名は、1889年の町村制施行に伴い、村が編成された際に新たに名付けられた瑞祥地名である。村域が鏡ケ浦（現在の館山湾）に面し、船舶の出入りする港（津）があることから、この港が将来豊かに発展することを願って選ばれたとされる。村の名称そのものは消滅したが、現在も館山市によって運営されている「豊津ホール」（豊津地区学習等共用施設）や豊津橋などにその名が残されている。

歴史

前近代

旧村域に含まれる「沼」という地名は、かつてこの地域に広がる沼沢地に由来すると伝えられている。沼地区の内陸部の丘陵地帯には、縄文時代から古墳時代にかけての複合遺跡である大寺山洞窟遺跡が存在し、古くから人々が生活を営んでいた痕跡が見られる。

中世においては、『保元物語』に登場する源義朝のもとに馳せ参じた武士、沼平太は、沼村の武士であった可能性が指摘されている。また、1097年（永長2年）には、安房国司であった源親元によって、沼地区に総持院（通称「沼の大寺」）が創建されたとされている。

江戸時代に入ると、沼村は内陸の農業を主とする集落（岡方）と、沿岸部で漁業を営む集落（浜方）に分かれていた。この漁業集落は当初「（沼村之内）柏崎村」と呼ばれていたが、後に「柏崎浦」として独立した村となった。

近代

明治維新後の行政改革により、1878年（明治11年）に郡区町村編制法が施行されると、沼村、柏崎浦、宮城村は連合戸長役場を設置して連合を組んだ。一方、笠名村と大賀村は香村など別の2村と連合を組んでいた。しかし、1884年（明治17年）に行われた戸長役場の管轄変更により、後に豊津村となる沼、柏崎、宮城、笠名、大賀の各村が一つの連合としてまとめられた。

そして1889年（明治22年）4月1日、町村制が施行されたことに伴い、この連合を構成していた沼村、柏崎浦、宮城村、笠名村、大賀村が合併し、新たに豊津村が誕生した。この際、村域は旧村の名称の頭文字を取った沼（ぬま）、柏（かしわ、柏崎）、宮（みや、宮城）、笠（かさ、笠名）、大（おお、大賀）の5つの大字に分けられた。

豊津村は発足当初から、隣接する初代館山町と町村組合を組織して共同で自治事務を行っていた。こうした協力関係を経て、1914年（大正3年）4月1日には、豊津村と初代館山町が合併する運びとなった。これにより、新たな館山町（現在の館山市の一部となる2代目の館山町）が発足し、豊津村は自治体としての歴史に幕を閉じた。

村が廃止された後の出来事として、1923年（大正12年）の関東大震災が挙げられる。この震災に伴い、沼から大賀にかけての海岸線が大幅に隆起した。この自然の変化を利用して海岸部が埋め立てられ、海軍館山飛行場が建設された（現在は海上自衛隊館山航空基地として利用されている）。この埋立地には、第二次世界大戦後に「富士見（ふじみ）」という大字名が付けられている。

社会

豊津村の地域では、古くから漁業と農業が主要な生業として営まれてきた。

明治時代には、宮城地区の出身者である蛯原久五郎が、上総大堀村（現在の君津市の一部）で海苔養殖の技術を習得し、旧豊津村域にあたる宮城、笠名、大賀地区にその技術を広めた。これにより、この地域では海苔養殖が盛んになり、「宮城海苔」として地域の特産品となった。しかし、前述の関東大震災による海底の隆起は、海苔養殖に適した環境を破壊してしまい、この地域の海苔養殖は不可能となった。

行政区画・自治体沿革

• - 1889年（明治22年）4月1日 - 町村制の施行に伴い、沼村、柏崎浦、宮城村、笠名村、大賀村が合併し豊津村が発足。
• - 1914年（大正3年）4月1日 - 館山町（初代）と合併し、改めて館山町を新設。同日豊津村は廃止された。

もう一度検索