貧乏神

貧乏神：日本文化に息づく貧困と信仰の象徴

古くから日本の各地で語り継がれてきた「貧乏神」。その正体は、人間やその家族を貧困に陥れるとされる神、あるいは妖怪です。様々な昔話や随筆、落語などに登場し、人々の生活に密着した存在として認識されてきました。

貧乏神の容姿と習性

貧乏神は、一般的に痩せこけた体躯で青ざめた顔色、手に渋団扇を持ち、悲しげな表情をしている老人の姿で描かれることが多いです。しかし、その姿形は様々で、共通点は「怠け者」を好むという点です。家につくと、押入れなどに住み着くとされています。詩人の中村光行氏によれば、味噌を好物とし、団扇で味噌の香りを扇いで楽しんでいるとも伝えられています。

貧乏神を追い払う方法

神である貧乏神を倒すことはできませんが、追い払う方法はいくつか伝えられています。例えば、新潟県では大晦日の夜に囲炉裏で火を焚くと、貧乏神が熱さに耐えかねて逃げ出し、代わりに福の神が訪れるとされています。愛媛県宇和島市（旧北宇和郡津島町）では、囲炉裏の火を必要以上に掘り返すと貧乏神が現れるという俗信もあります。これらの俗信は、囲炉裏という生活の中枢が、貧乏神と深く関わっていたことを示唆しています。

歴史における貧乏神

「貧乏神」という表現自体は、室町時代まで遡ることができると考えられています。応仁の乱で荒廃した京都の記録には、「文明13年（1481年）6月、堺の福神の女房達が京都へ入り、京都の貧乏神の男達が堺へ行った」という記述があり、これは堺からの福神の入洛が京都復興への願いを込めたものであると解釈されています。この記録からは、貧乏神が男性として認識されていたことがわかります。また、連歌にも貧乏神が登場しており、例えば荒木田守武の『守武千句』にもその記述が見られます。

貧乏神が登場する古典作品

江戸時代の奇談集『兎園小説』（曲亭馬琴ら）では、「窮鬼（きゅうき）」という名称で貧乏神が登場します。また、津村淙庵の随筆『譚海』や井原西鶴の『日本永代蔵』にも貧乏神に関する記述があり、これらの作品を通して、人々の貧乏神に対する認識や捉え方の多様性が見て取れます。

貧乏神の信仰と現代

『日本永代蔵』では、貧乏神が貧困を福に転じる神として描かれています。東京都文京区の牛天神北野神社の脇にある「太田神社」では、貧乏神を祀っており、21日間の願掛けを通して貧乏神と縁を切る儀式が行われています。また、東京都台東区の妙泉寺には、ゲーム『桃太郎シリーズ』の貧乏神をモチーフにした石像が祀られています。これは景気回復を願うもので、「貧乏が去る（猿）像」と呼ばれ、香川県高松市、長崎県佐世保市、銚子電気鉄道の駅などにも設置されています。銚子電気鉄道では、さらに「貧乏を取り（鳥）」、「貧乏が去ぬ（犬）」の像も設置されています。

貧乏神と焼き味噌

大阪の船場では、明治10年頃まで貧乏神送りの行事がありました。毎月月末に、商家の番頭が焼き味噌を家々へ配り、その香ばしい匂いで貧乏神を誘い出し、味噌の中に閉じ込めて川に流すことで、貧乏神を追い払うという風習です。この風習は、貧乏神が焼き味噌を好むという伝承と関連していると考えられます。

ことわざと貧乏神

「柿の種は貧乏神のつく」ということわざは、渋団扇に貧乏神が憑くという俗信に由来します。

まとめ

貧乏神は、単なる妖怪ではなく、人々の生活、信仰、そして経済状況と深く結びついた存在です。その姿形、習性、そして信仰のされ方は時代や地域によって様々ですが、貧困という普遍的なテーマを背景に、人々の願いや祈り、そしてユーモラスな側面を反映した存在と言えるでしょう。現代においても、貧乏神をモチーフとした作品や、貧乏神を祀る神社は、人々の生活の中に息づいています。

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