貪欲 (デューラー、ウィーン)

アルブレヒト・デューラーの『貪欲』：寓意と表現の深淵

アルブレヒト・デューラー（1471-1528）が1507年に菩提樹材に油彩で描いた小型絵画『貪欲』（独: Allegorie des Geizes、英: Avarice）は、その背後にある深い寓意と、卓越した表現力で見る者を惹きつけます。この作品は、デューラーがヴェネツィア滞在期の終わりに描いたとされる『若い男性の肖像』の裏面に描かれており、両作品が元々2連祭壇画として意図されていた可能性も指摘されています。

人生の儚さと現世の富への警告

『貪欲』は、一般的にデューラーの「ヴァニタス」（虚無）のテーマを扱った作品の一つと見なされており、『メランコリア I』と並んで語られることもあります。この作品は、人生の儚さ、そして現世の富への警告というメッセージを強く打ち出しています。美術史美術館では「寓意的女性像」という題名で所蔵されており、作品が持つ多層的な意味合いを示唆しています。

独特な表現による強烈な印象

画面には、貪欲と若い時代の美の儚さを象徴する女性が半身像で描かれています。長く真っ直ぐな金髪はかつての美しさを偲ばせますが、どんよりとした目、伸びた鼻、すぼまった顎、そして二本しか残っていない歯を見せる口元は嘲笑を浮かべているようです。筋肉質な右腕は身体の他の部分と不釣り合いで、脇の下からは濃い毛が伸びています。これらの特徴は、老いと貪欲がもたらす醜悪さを強調しています。表現の簡潔さと、黒色の背景と上着、髪の毛の鮮やかな色彩のコントラストが、人物像の強い印象を際立たせています。

ヴェネツィア派の影響とジョルジョーネとの比較

美術史家は、本作をヴェネツィアのアカデミア美術館にあるジョルジョーネのキャンバス画『老女（ラ・ヴェッキア）』と比較してきました。両作品には、主題において明らかな類似点が見られます。デューラーの厚塗りの技法や、前景に見られる豊かな色彩は、ヴェネツィア派の影響を強く示唆しています。美術史家のT.スタージ・ムーアは、デューラーがジョルジョーネのような画風を試みたかったのではないかと推測しています。

作品の背景に関する諸説

一部の研究者は、この作品が初期の肖像画に対する当てつけ、つまりモデルが画家への報酬を支払わなかったことへの報復であると解釈しています。しかし、当時のデューラーの経済状況を考慮すると、彼が顧客を故意に不快にさせるような行動を取るとは考えにくいという意見もあります。作家のジェシー・アレンは、この説を否定し、作品が売れそうになかったため、キャンバスの裏面を利用して商業的に成功しそうな人物像を描いたのだろうと述べています。

未完成作品としての側面

『貪欲』は、しばしば未完成な作品と見なされ、習作として言及されることもあります。しかし、作品の保存状態は良好で、色彩も鮮やかさを保っています。この作品は、デューラーの卓越した技術と、人間の内面に潜む欲望や虚無を深く洞察する彼の才能を如実に示していると言えるでしょう。


参考文献
Allen, Jessie. Albert Dürer. Kessinger, 2005. ISBN 0-7661-9475-2
Bailey, Martin. Dürer. London: Phidon Press, 1995. ISBN 0-7148-3334-7
Silver, Larry & Smith, Jeffrey Chipps. The Essential Dürer. University of Pennsylvania Press, 2010. ISBN 0-8122-4187-8
Sturge Moore, T. Albert Dürer. Bastian Books, 2008. ISBN 0-554-23107-7
* Thausing, Moriz. Albert Dürer: His Life and Work, Part 1. Kessinger Publishing, 2003. ISBN 0-7661-5416-5

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