貴婦人の肖像 (ティツィアーノ)

『貴婦人の肖像』は、ルネサンス期のヴェネツィア派を代表する巨匠、ティツィアーノ・ヴェチェッリオによって1525年から1565年頃に制作された油彩画です。この作品は、鑑賞者を見つめる女性の胸像を描いており、彼女の姿は黒いダブレットに小さなフリルのついた白い袖口、そして頭から垂れ下がるヴェールによって特徴づけられています。

この絵画は長い間ティツィアーノの作品とされてきましたが、その帰属には不明な点も残されています。しかし、『ラ・ベッラ』や『毛皮を着た若い女性』といったティツィアーノの他の作品との関連性も指摘されており、彼の画風をよく表していると評価されています。かつては『ジュリア・ゴンザーガの肖像』とも呼ばれていましたが、現在ではその説は否定され、単に『貴婦人の肖像』として知られています。

絵画の状態は決して良好とは言えず、過去の修復作業によって表面の絵具や下地が失われている箇所があります。特に画面上部の背景や女性の髪の部分に劣化が見られ、モデルの顔の左側や胸のあたりにも絵具の摩耗が認められます。

この作品は元々イタリアの個人コレクションに所蔵されていましたが、1928年から1930年にかけてニューヨークの美術商を通じてシカゴの実業家マックス・エプスタインの手に渡りました。エプスタインの死後、1954年にシカゴ美術館に遺贈され、現在に至っています。

また、この作品には複製が存在し、マドリードのセラルボ美術館に所蔵されています。セラルボ美術館は、セラルボ侯爵エンリケ・デ・アギレラ・イー・ガンボアのコレクションを収蔵しており、この複製画は侯爵の時代からヴェネツィア派の作品として登録されていました。

『貴婦人の肖像』は、ティツィアーノの熟練した筆致と、モデルの謎めいた表情が組み合わさった魅力的な作品であり、その来歴や保存状態、そして複製画の存在が、美術史において重要な研究対象となっています。

関連作品

ティツィアーノの作品には、本作品と関連性が指摘される肖像画が複数存在します。例えば、『ラ・ベッラ』や『毛皮を着た若い女性』は、いずれも女性を描いた肖像画であり、その表現技法やモデルの雰囲気において『貴婦人の肖像』との共通点が見られます。これらの作品を比較することで、ティツィアーノの肖像画における表現の変遷や、彼が追求した美のあり方について、より深く理解することができるでしょう。

参考文献

Berenson, Bernard (1957). Italian Pictures of the Renaissance: Venetian School. Vol. 1. London: Phaidon Press. p. 184.
Lloyd, Christopher (1993). Italian Paintings before 1600 in the Art Institute of Chicago: A Catalogue of the Collection. Chicago. pp. 246–248, ill.
Wethey, Harold E. (1971). The Paintings of Titian: Complete Edition. Vol. 2: The Portraits. London: Phaidon Press. p. 169, no. X-60.

外部リンク

シカゴ美術館公式サイトへのリンク'>シカゴ美術館公式サイト, ティツィアーノ・ヴェチェッリオ『貴婦人の肖像』

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