毛皮を着た若い女性

ティツィアーノ「毛皮を着た若い女性」

ティツィアーノ・ヴェチェッリオが1535年頃に制作した油彩画『毛皮を着た若い女性』は、ルネサンス期のヴェネツィア派を代表する作品の一つです。この絵画は、その官能的な表現と、モデルの女性の魅力によって、美術史において重要な位置を占めています。現在、ウィーンの美術史美術館に所蔵されており、ピーテル・パウル・ルーベンスによる模写も存在します。

作品の描写

この絵画の中心は、黒い毛皮を羽織った半裸の若い女性です。彼女は真珠のネックレス、涙型のイヤリング、金のブレスレットと指輪といった豪華な装飾品を身につけています。毛皮は肩から滑り落ち、女性のふくよかで白い肌を露わにし、その輪郭を強調しています。肌はほんのりと赤みを帯び、瞳のハイライトが彼女の視線に生命力を与えています。編み込まれた髪は真珠の髪飾りで飾られ、女性の美しさを一層引き立てています。

特に注目すべきは、女性のポーズが古代彫刻「恥じらいのヴィーナス」に基づいている点です。これにより、単なる肖像画を超えた、理想化された女性美の賛美としての側面が強調されています。この作品は、当時の恋愛抒情詩に触発された、理想の女性像を追求したものであると考えられています。

モデルの謎

絵画のモデルとなった女性は、ティツィアーノの他の作品にも登場すると考えられています。特に、ウフィツィ美術館の『ウルビーノのヴィーナス』、パラティーナ美術館の『ラ・ベッラ』、エルミタージュ美術館の『羽飾りのある帽子をかぶった若い女性の肖像』の女性像と同一人物である可能性が指摘されています。特に『ラ・ベッラ』との関連は深く、X線による科学的調査の結果、この絵画が当初『ラ・ベッラ』の複製として制作され始めた後、現在の官能的な裸婦に近い姿に変更されたことが判明しています。

作品の来歴

『毛皮を着た若い女性』は、彫刻家ポンペオ・レオーニ、第2代ヴィラメディアナ伯爵ヤン・タシス・イ・ペラルタのコレクションを経て、1649年までにイングランド国王チャールズ1世のコレクションに加わりました。チャールズ1世の処刑後、1651年に売却されています。この作品が辿った歴史は、その価値と美術史における重要性を物語っています。

ルーベンスの影響

この作品は、バロック期の巨匠ピーテル・パウル・ルーベンスによって模写されており、ルーベンスの作品にも影響を与えています。ルーベンスは1629年から1630年にイギリスを訪れた際にこの作品を模写し、その後、自身の妻エレーヌ・フールマンをモデルにした『毛皮をまとったエレーヌ・フールマン』を制作しました。この作品は、ティツィアーノの絵画と同様に、ウィーンの美術史美術館に所蔵されています。ルーベンスによる模写と自身の作品への展開は、『毛皮を着た若い女性』が後世の芸術家に与えた影響の大きさを物語っています。

まとめ

ティツィアーノの『毛皮を着た若い女性』は、その官能的な美しさと、モデルの謎めいた魅力、そしてその後の芸術家たちに与えた影響によって、ルネサンス美術を代表する傑作の一つとして、今もなお多くの人々を魅了し続けています。

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