ラ・ベッラ

ティツィアーノ作『ラ・ベッラ』の詳細

作品概要

『ラ・ベッラ』（伊: La Bella）は、ルネサンス期のイタリアを代表する画家ティツィアーノ・ヴェチェッリオが1536年から1538年にかけて制作した油彩画です。この作品は、ウルビーノ公爵フランチェスコ・マリーア1世・デッラ・ローヴェレのコレクションに由来し、現在はフィレンツェのパラティーナ美術館に所蔵されています。

作品の特徴

この絵画には、青色のダマスク織の豪華なガウンを身にまとった女性が、7分丈の高さで描かれています。ガウンは金糸を用いた繊細な刺繍と小さなリボンで装飾され、バーガンディー色のベルベットの袖には白い生地が見えるように切り込みが入っています。女性の右手首にはクロテンの毛皮がかけられており、これは当時流行したジベリーノと呼ばれる装飾品です。また、金のガードルに取り付けられた円筒形の物体は、香料を入れるためのポマンダーと考えられています。女性は右手をガードルに添え、左手は右手首の毛皮を指しています。大きく開いた胸元は金のネックレスで飾られ、耳には真珠のイヤリングが輝いています。髪型も精巧な三つ編みでまとめられています。

モデルに関する諸説

この作品は、ウルビーノ公爵が1536年5月の手紙で言及した「青いドレスを着た女性の肖像画」であると考えられています。描かれている女性の服装は当時の流行と一致しています。モデルについては、『ウルビーノのヴィーナス』や他のティツィアーノの作品に登場する女性と同一人物ではないかという説がありますが、特定には至っていません。過去には、パルマ・イル・ヴェッキオの娘でティツィアーノの恋人であったとされるヴィオランテや、イザベラ・デステ、ウルビーノ公爵の妻エレオノーラ・ゴンザーガなどの名前も挙がりましたが、現在では否定されています。シェイラ・ヘイルは、画家と食事をしたことが知られている高級娼婦アンジェラ・デル・モーロと同一視しています。この絵画は、特定の人物の肖像というよりも、ルネサンス期の理想的な女性美を表現したものである可能性も指摘されています。

作品の修復

絵画は部分的に保存状態が悪かったため、2011年に修復が行われました。修復によって変色したニスが除去され、肌の明るさやガウンに使用されたウルトラマリンの鮮やかな青色が蘇りました。

来歴

この作品は、1536年から1538年頃にウルビーノ公爵がヴェネツィアで購入したと考えられています。公爵はティツィアーノの代理人に絵画の進捗状況を尋ねる手紙を送り、その中で絵画を「青いドレスを着た女性の肖像画」と呼んでいます。その後、絵画はデッラ・ローヴェレ家で代々受け継がれましたが、ヴィットーリア・デッラ・ローヴェレがトスカーナ大公フェルディナンド2世・デ・メディチと結婚した際に、メディチ家のコレクションとなりました。18世紀の案内書で、描かれた女性が画家の「お気に入り」または「最愛の人」を意味する「ベッラ」と表現されたことで、『ラ・ベッラ』という呼び名が定着しました。

まとめ

『ラ・ベッラ』は、ティツィアーノの卓越した技術と、ルネサンス期の美意識が融合した傑作です。モデルの特定は未だ謎に包まれていますが、その美しさは時代を超えて多くの人々を魅了し続けています。

参考資料

イアン・G・ケネディー『ティツィアーノ』、Taschen（2009年）
ウフィツィ美術館公式サイト, ティツィアーノ・ヴェチェッリオ『ラ・ベッラ』

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