貴穀賤金

貴穀賤金（きこくせんきん）とは

江戸時代における貴穀賤金は、金銭よりも米穀の方が重要であるとする経済思想です。この考え方は、物価の安定を図るための一手段ともいえるもので、当時の経世論において重要な位置を占めていました。

概要

「貴穀賤金」という言葉は、佐藤信淵の著作「物価余論簽書」において、大久保一翁によって付けられたものであり、佐藤本人が創造した言葉ではありません。実際には、佐藤は「貴金賤穀の弊」といった表現を用いていますが、「賤金貴穀」という言葉は使用していません。この賤金と貴穀の関係を初めて唱えたのは熊沢蕃山であり、彼の『集義外書』にはその考えが記されています。

熊沢は賤金貴穀を徹底的に論じたわけではありませんが、一定の主張を持っていました。享保年間には荻生徂徠や太宰春台も同様の思考の流れを引き継いでいきます。林子平は天明年間に『海国兵談』で、貴金賤穀の弊を明白に指摘していますが、彼の主な論点は飢饉という時代背景から軍備の考慮を含むものでした。この点が、佐藤が貴穀賤金論を物価平準化を目的としたものであったのとは異なる部分です。

佐藤信淵はその著作の中で、高い米価の維持が必要であると論じました。井上四明もまた『経済十二論』で貴穀について言及し、熊沢が提唱した米の利用について現実には実行されなかったことを嘆いています。

さらに、頼山陽は「通議」という論文で、賤金論者は漢学者に限定されず、本居宣長などもこの議論に加わっています。宣長は「秘本玉くしげ」の中で、貨幣取引には制限を設けるべきだと述べていますが、彼の考え方は貴穀論に直接結びつくものとは言い難く、それでも賤金の観点から重要な見解を提供しています。

江戸時代の知識人たちの認識

全般的に見て、江戸時代の漢学者や儒学者たちは、貨幣経済と物品経済の相互関係をおぼろげながら認識しており、これらの制度が相矛盾するわけではないが、実際には共存しづらいことを感じ取っていたと考えられます。この矛盾は、経済構造の変化に対する疑問を生み出し、さまざまな思想が生まれる背景となりました。

まとめ

貴穀賤金の思想は、江戸時代の日本における経済観や社会制度に対する重要な考察を提示しています。金銭よりも米穀を重視するこの考えは、物価の安定や経済の仕組みを理解する上で不可欠な要素として、今なお学ばれるべきものです。

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