貿易における重力モデル

貿易における重力モデル

概要

貿易重力モデルとは、国同士の距離とそれぞれの国の経済規模（GDPや人口）を基に、貿易額を予測する手法です。このモデルの考え方は、他の社会科学分野でも見られる移民や観光の推定に類似しています。歴史的には、1954年にウォルター・アイザード、1962年にヤン・ティンバーゲンがこのモデルを国際貿易の文脈で初めて取り上げました。

モデルの基本的な数式は、以下のように表されます。

$$
F_{ij} = G \frac{M_i M_j}{D_{ij}}
$$

ここで、$F_{ij}$は国$i$と国$j$間の貿易額、$M_i$および$M_j$は各国の経済規模、$D_{ij}$は二国間の距離、$G$は定数です。この式に対数を取ることで、線形な形に変換されます。

$$
\ln(F_{ij}) = \beta_{0} + \beta_{1}\ln(M_{i}) + \beta_{2}\ln(M_{j}) - \beta_{3}\ln(D_{ij}) + \varepsilon_{ij}
$$

ここで、$eta_{0} = \ln G$です。一般的には、$\beta_{1} = \beta_{2} = \beta_{3} = 1$が理論的に考えられています。この式には、他にも社会経済的な要因を示すダミー変数を加えることができるため、柔軟性があります。

理論的基礎

重力モデルは、実証的な成功を収めているものの、その理論的根拠についてはさまざまな議論があります。初期の論文では、一般均衡モデルに基づいた貿易の理論が示されています。特に、物価水準や為替レートが重要な要素であることを示し、これらが欠けるとバイアスが生じると指摘されています。アラン・ディアドーフによる研究は、貿易コストがなく、国家間の選好が均等な場合、貿易フローが重力モデルの予測と一致することを示すなど、理論的な裏付けを提供しています。

応用例

このモデルは、様々な経済分析において広く利用されています。例えば、国境の有無が貿易に与える影響を推定する「国境効果」、自由貿易協定の効果、通貨同盟の影響などが挙げられます。また、自然災害や金融危機が国際貿易に及ぼす影響を分析する際にも、重力モデルは重宝されています。

問題点と克服

しかし、実際のデータには貿易が見られない国の組が存在します。このようなデータは「ゼロ貿易フロー」と呼ばれ、これを考慮せずにモデルを適用するとサンプルセレクションの問題が生じます。これを克服するために、ジェームズ・ヘックマンの二段階推定法やポワソン疑似最尤推定法などが用いられます。さらに、経済規模をGDPだけでなく、一人あたりの所得や貿易コストなど、他の要因も考慮することが重要です。

重力モデル外の貿易要因

重力モデルは、GDPや距離以外にも貿易に影響を与える他の要因が存在することを示しています。消費者の選好や市場の競争状態など、多様な側面から貿易を分析することが求められています。このように、貿易重力モデルはその利用価値が高い一方で、より精緻な分析と理論の発展が求められる分野でもあります。

もう一度検索