賀田金三郎

賀田金三郎：台湾と日本の近代化を駆け抜けた実業家

賀田金三郎(1857年-1922年)は、明治から大正時代にかけて活躍した日本の実業家です。山口県萩市出身で、札差商家の家に生まれました。漢学を学んだ後、家業を継ぎますが、明治18年(1885年)には東京へ移住。藤田組、そして大倉組と、当時を代表する財閥企業で経験を積み重ねます。

転機は日清戦争後。明治28年(1895年)の戦争終結後、大倉組の台湾総支配人に就任。この時代、台湾は日本の統治下に入り、インフラ整備が急務でした。金三郎はこの好機を捉え、明治30年(1897年)には大倉喜八郎、山下秀実らと共に駅伝社を設立。郵便や国庫金の輸送、労働力の供給など、台湾の交通事業の中核を担う企業として成長させました。

さらに、明治31年(1898年)には小野田セメントの台湾における販売権を獲得。事業の成功は、台湾総督府からの信頼を勝ち取ることに繋がります。明治32年(1899年)、金三郎は「賀田組」を設立し独立。土木建築、運送業、さらには鉄道建設や港湾事業まで、事業を多角化させました。日露戦争時には陸海軍への物資供給も手掛け、巨額の利益を得ています。

賀田組の事業は台湾全土に拡大し、総督府から2万町歩もの土地を払い下げられ、「賀田村」という大規模な農場村を造成するなど、農業分野にも進出。台湾銀行や台湾製糖といった大企業の設立にも関与するなど、台湾財界において絶大な影響力を持つ存在となりました。

一方、金三郎の事業は台湾にとどまりませんでした。明治40年(1907年)には、日本皮革(現在のニッピ)の取締役に就任。また、日韓併合後の明治43年(1910年)には、朝鮮半島への事業進出を本格化させます。鉱山開発、皮革業、精米、電気、鉄道、造林など、多様な分野に投資を行い、台湾で培った事業手腕を朝鮮半島でも発揮しました。特に、台湾産の砂糖を朝鮮半島で販売する戦略は、彼の先見性を示すものです。

金三郎は、実業家としての活動と並行して、相場師としても成功を収めました。明治44年(1911年)には米の買い占めで巨額の利益を得て「相場師・賀田金」として名を馳せました。武蔵電気鉄道や東京急行電鉄の取締役にも就任するなど、その影響力は拡大していきます。しかしながら、『当世名士縮尻り帳』(1914年)によると、不景気の影響を受け、財産差し押さえに遭う苦境も経験しました。

大正11年(1922年)、金三郎は64歳で死去しました。彼の朝鮮での事業は婿養子の賀田直治が継承しました。長男の以武は、早稲田大学商学部を卒業し、賀田組や関連企業で活躍しました。

賀田金三郎は、日本の近代化、そして台湾の経済発展に多大な貢献をした人物です。実業家として、また相場師として、常に時代の先端を走り続けた波乱万丈な生涯は、現代においても学ぶべき点が多く残されています。彼の功績は、単なる経済活動の成功にとどまらず、時代を動かす力強さを示しています。台湾におけるインフラ整備、産業育成への貢献は、今日の台湾経済の礎を築いたと言えるでしょう。彼の活動は、日台関係、そして日韓関係の歴史を理解する上で重要な要素となっています。その功績は、歴史書や関連資料を通じて、今もなお高く評価されています。彼の生き様は、現代のビジネスパーソンにも多くの示唆を与えてくれるでしょう。

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