賀竜

賀竜（ホー・ロン）

中華人民共和国の建国に多大な貢献を果たし、元帥の地位に就いた軍人、賀竜（が りゅう、ホー・ロン、1896年3月22日 - 1969年6月9日）。彼は貧しい農家の出身ながら革命の嵐に身を投じ、軍人としてその生涯を捧げました。しかし、文化大革命の混乱の中で権力の座を追われ、悲劇的な最期を迎えることになります。享年74歳でした。

貧困からの出発と革命への道

1896年、湖南省の桑植県で貧しい農家の息子として生まれた賀竜。本名を賀文常、字を雲卿といいます。幼少期には学校教育を短期間受けたとも言われますが、学籍はなかったと推測されており、家計を助けるために塩運びとして働いたと自伝に記しています。才気にあふれ、剛直で飾り気のない人柄でしたが、十分な教育を受けられなかったことは、その後の人生に少なからぬ影響を与えたと考えられています。

彼の革命運動への参加は、若き日の鮮烈な逸話から始まります。16歳の時、たった2本の牛刀で大地主の私兵に立ち向かい、武器弾薬を手に入れて革命軍を組織したと伝えられています。さらに21歳までには、およそ2万人に及ぶ農民を率いて反乱を起こしたとも言われており、その大胆さと指導力がうかがえます。

1914年には孫文率いる中華革命党に加わり、軍歴を重ねていきます。1918年には湖南靖国軍の営長となり、国民党の四川作戦にも参加。各地で旅団長や師団長といった要職を歴任し、その軍事的手腕を発揮しました。

国共内戦と共産党への入党

1926年に国民革命軍に加わった賀竜は、北伐の開始とともに師団長や軍長を歴任します。しかし、1927年8月1日には国民革命軍から離脱し、中国共産党指導下の南昌起義で総指揮を務めましたが、これは鎮圧されます。その後、南下する途上の1927年9月、中国共産党に入党。自身の信念に基づき、共産党員として革命の道を歩むことを決意しました。

共産党に入党後は、長征にも参加し、困難な道のりを経て延安に到達。1936年には紅軍第二方面軍の司令官、日中戦争中の1937年には八路軍120師団の師団長を務めるなど、共産党軍の中核を担う存在となっていきました。

新中国の要職とスポーツへの情熱

1949年の中華人民共和国建国後、賀竜はその功績が認められ、重要な地位を歴任します。1950年には西南軍区司令としてチベット解放を指揮。1952年からは国家体育運動委員会の主任を兼務し、スポーツの振興に力を注ぎました。1954年には国務院副総理、人民革命軍事委員会副主席に就任。そして1955年、中華人民共和国元帥の一人に任命されました。

党内でも昇進を続け、1956年には中央政治局委員、1959年には中央軍事委員会副主席に選出されるなど、名実ともに中国共産党と人民共和国の重鎮となりました。国家体育運動委員会の主任としては、中国のスポーツ発展に熱心に取り組みました。特に三大競技（サッカー、バスケットボール、バレーボール）のレベル向上を強く願っており、1958年にサッカー中国代表がワールドカップ予選で敗退した際には、「三大競技が予選を突破できなければ死んでも死にきれない」と無念の言葉を残したエピソードは有名です。

文化大革命の悲劇と名誉回復

国民からの人気も高く、毛沢東への敬慕の念を抱き続けた賀竜でしたが、文化大革命の波は彼にも容赦なく押し寄せました。四人組らによって批判の対象とされ、投獄されてしまいます。獄中では糖尿病を患いましたが、適切な治療を受けられませんでした。1969年6月9日、病状が悪化した際、インスリンの代わりに高濃度のブドウ糖溶液を投与されたことが原因で、非業の死を遂げました。

彼の思想に関する資料は少なく、毛沢東や周恩来の回想に頼る部分が大きいとされています。文化大革命中に批判された際、周恩来の指示で一時救出されたこともありましたが、軍内の反林彪派への攻撃が激化する中で軟禁状態に置かれました。学問の不足にコンプレックスがあり、発言が控えめだったことが、誤解を招きやすい性格だったとも言われています。

彼の死後、1973年に毛沢東が「賀竜を見誤っていた」と発言したことを契機に、1974年には名誉が回復されました。そして、1982年には正式に冤罪が晴らされました。

現在、彼の功績と人柄は偲ばれています。故郷の湖南省には賀竜公園が整備され、南昌起義を指揮した場所には指揮部旧址が記念施設として保存されています。また、長沙市には大規模な賀竜スタジアムがあり、彼のスポーツ振興への情熱を今に伝えられています。

賀竜は、文字通り「裸一貫」から身を起こし、中華人民共和国の建国に命を懸けて尽くした人物でした。その波乱に満ちた生涯は、革命の成功と、それに伴う激しい権力闘争という、中国近代史の光と影を映し出しています。

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