贄

贄（にえ）についての詳細な解説

贄（にえ）とは、神や天皇に捧げられる食物を指す総称です。この制度は古代から続く日本独特のもので、主に神に供える「神饌」と天皇に進上される食物の2つの側面を持っています。特に新穀を神と共に食べる「新嘗（にいなめ）」の儀式に深く関わっています。

贄の起源と歴史的背景

この制度の名称が初めて登場したのは、『古事記』の中に見られる「贄持之子」という記述です。これは神武天皇が八咫烏に導かれて吉野河に入った際の話に由来しています。また、『肥前国風土記』には景行天皇の時代における贄の供進の例が記されています。ここでは阿曇百足が、神に命乞いをして鮑（あわび）を献上したというエピソードが描かれています。

贄の制度は、『古事記』や『風土記』に見られる伝承の中でも重要な位置を占めています。この制度は、征服者である王に対して食物を供出することで、服属の証を示す儀礼として機能していました。王は自然の産物を食べることで、その土地を支配していることを認識したというわけです。

律令制度と贄の変遷

律令制度が整い、国家の財政と天皇家の財政が統合された養老令のもとでは、贄という名称は消え去りましたが、古い贄の制度は「調」の中に取り込まれるなどして一部が残存しました。これは、贄が生鮮食品を中心として提供される性質上、調に含めることが難しかったからとされています。さらに、贄は「天皇の食物」として特別視され、宮内省がその事務を管掌することになりました。

『延喜式』によれば、贄には「年料」や節句用の「節料」、さらに10日ごとに供進される「旬料」が含まれていたことが記録されています。これらには魚類や動物の肉、果物が含まれており、季節に応じた供給がなされていたことがわかります。

贄に関する考古学的証拠

平城宮や平城京などの遺跡からは贄の荷札が多く出土しています。荷札には贄に関与する地域名が記されており、個人の名前は含まれていません。これは、主に特定の集団が贄を提供していたことを示しています。例えば、特定の郡からの供物は、漁業を行う人々や地域の特性によるもので、海や山からの産物が中心でした。

贄の制度の影響

贄の制度が終焉した後も、中世には天皇に関連した別の集団が存在しました。これらの集団は贄人（にえひと）と呼ばれ、平安時代後期に活動していました。江人（えひと）や網引（あみひき）、鵜飼（うかい）などがその例です。

このように、贄の制度は古代から続いた日本の文化や祭事に深く根付いた制度であり、その影響は現代まで脈々と受け継がれています。

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