贖い主としてのキリスト (マンテーニャ)

アンドレア・マンテーニャ作『贖い主としてのキリスト』

アンドレア・マンテーニャが1488年から1500年頃に制作したテンペラ画『贖い主としてのキリスト』は、初期イタリア・ルネサンスを代表する作品の一つです。コペンハーゲン国立美術館に所蔵されており、画家晩年の作品として知られています。この作品は、キリストの受難と復活という深いテーマを、マンテーニャ独自の解釈と卓越した技術で描いています。

歴史的背景

本作は、マンテーニャがローマに滞在していた時期に制作されたと考えられています。同時期の作品『洞窟の聖母』との様式的類似性から、1490年代の制作とする説もあります。絵画は1627年のゴンザーガ家の目録に記録され、その後、1763年にデンマーク王フレデリク4世によってデンマーク王室のコレクションに加えられました。これは、王室コレクションをヨーロッパの他の王室コレクションに匹敵させるための重要な動きでした。

作品の詳細

この絵画は、伝統的なピエタ（キリストの死を悼む図像）の主題を、マンテーニャが独自に解釈したものです。キリストは、両手を開き、磔刑による傷跡をはっきりと示しながら、古代ローマの石棺の上に横たわっています。この石棺の描写は、マンテーニャの古代世界への深い関心を反映しています。キリストの身体は、金属的な光沢を放つ白い布で覆われ、二人の天使（熾天使と智天使）によって支えられています。キリストの両腕と天使たちが作るX字型は、キリストのギリシア語表記の最初の文字「X」を象徴しており、キリストの受難、死、そして復活のイメージが重ねられています。

背景には、日没の光に照らされた遠景が広がります。左側には石棺の蓋が見え、遠くにはシオンの丘を含む風景が描かれています。右側にはゴルゴタの丘と、石切り場で働く人々がいます。さらに、内部が光で照らされた洞窟の中にも労働者の姿が見えます。左側の岩山の尾根には、羊飼いたちと牛の群れが草を食む牧草地、そして壁に囲まれたエルサレムが描かれています。

また、2人の女性がキリストの墓へ急ぐ様子が描かれています。これは、『ルカによる福音書』の24章1節、「週の初めの日の明け方に、女たちは準備した香料を持って墓に行った」に基づいています。しかし、キリストと天使の姿は福音書には記述されていません。

作品の二重構造

本作は、前景と後景に異なる二つの図像を融合させています。後景は福音書の記述に忠実な情景を描いていますが、前景はキリストの受難をクローズアップした、個人祈祷用の図像としての側面を持っています。マンテーニャは、この二つの要素を組み合わせることで、キリストの受難と復活という深いテーマを、より多面的かつ象徴的に表現することに成功しています。

まとめ

『贖い主としてのキリスト』は、マンテーニャの卓越した画力と、深い宗教的理解が融合した傑作です。精緻な描写、象徴的な表現、そして二重構造を持つ画面構成は、見る者に深い感動を与えます。この作品は、ルネサンス美術の重要な例として、今日も多くの人々を魅了し続けています。

参考文献

千足伸行監修『週刊世界の美術館 No.87 コペンハーゲン国立美術館』、講談社、2001年11月刊行
Kleiner, Frank S. Gardner's Art Through the Ages, 13th Edition, 2008
La Grande Storia dell'Arte - Il Quattrocento, Il Sole 24 Ore, 2005
Manca, Joseph. Andrea Mantegna and the Italian Renaissance, 2006

外部リンク

* コペンハーゲン国立美術館公式サイト、アンドレア・マンテーニャ『贖い主としてのキリスト』 (英語)

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