赤ん坊の食事

赤ん坊の食事

『赤ん坊の食事』（フランス語: Le Repas de Bébé）は、映画史における最初期の作品群の一つとして知られる、1895年に制作されたフランスの短編サイレントドキュメンタリー映画です。映画の発明者の一人であるルイ・リュミエールが監督と製作を手掛け、彼の兄オーギュスト・リュミエールの幼い娘、アンドレ・リュミエール（当時赤ん坊）が主演を務めました。この作品は、1895年12月28日にパリで開催された、歴史的なリュミエール・シネマトグラフの最初の商業公開プログラムの一部として上映されました。残念ながら、主演のアンドレは成人後、わずか24歳でスペインかぜによりリヨンでその生涯を閉じています。

制作背景と技術

本作は、初期のリュミエール作品と同様に、35ミリフィルムを使用し、現在とは異なる1.33:1のアスペクト比で撮影されました。撮影に用いられたシネマトグラフは、単なるカメラとしてだけでなく、現像機、そして映写機としても機能する多目的な装置でした。リュミエール兄弟は、この革新的な装置を用いて、日常生活の一コマをフィルムに定着させました。

作品の内容

映画はただ一つのショットで構成されています。画面には、緑豊かな田舎の背景の中で、オーギュスト・リュミエールとその妻マルゲリート、そして娘のアンドレが朝食をとる様子が映し出されます。家族が食卓を囲み、赤ん坊に食事を与える、ごくありふれた日常の情景が捉えられています。リュミエール兄弟の初期作品に典型的なように、本作はまるで熱心なアマチュア写真家が家族のスナップを撮るかのような、親密で自然な雰囲気を持ち合わせています。

上映と普及

『赤ん坊の食事』が初めて大勢の人々の前で上映されたのは、商業公開に先立つ1895年6月10日、リヨンで開催されたフランス写真家協会の会合でのことでした。これはリュミエール兄弟が彼らの映画を多くの観客に見せた最初の機会となりました。以降、数ヶ月にわたり、この作品は様々な写真や科学関連の会合で繰り返し上映され、多くの観客に紹介されました。1897年以降、リュミエール兄弟自身は映画製作から徐々に距離を置くようになりますが、彼らが設立したリュミエール協会によって本作は引き続き配給され続け、1905年の協会のカタログにも作品番号88として記載されていました。

映画史上の評価と意義

映画史の黎明期において、『赤ん坊の食事』は様々な観点からその重要性が指摘されています。後の映画監督ジョルジュ・メリエスは、最初の商業上映に立ち会い、前景の人物よりもむしろ背景で風に揺れる木々の葉に感銘を受けたという証言を残しています。

また、アンリ・ラングロワのような映画史研究家は、自然の中で朝食をとるという意図的な設定に、印象派絵画との関連性を見出しています。やや近接して人物を捉える構図は、ルノワールやメアリー・カサットといった印象派画家の肖像画を連想させるとも言われます。アラン・ウィリアムズは、本作の単一ショットの構図が、背景の家の壁が対角線を形成し空間的な奥行きを加えている点など、芸術的な観点からも計算されていることを強調しています。

リー・グリーヴソンとピーター・クレーマーといった研究者は、『赤ん坊の食事』が映画という新しいメディアの受容において重要な役割を果たしたと論じています。トーマス・エジソンの初期作品が主に男性観客を対象としていたのに対し、中流階級の家庭生活を写実的に描いた本作は、より幅広い観衆、特に家族層への訴求力が高く、映画が家族全員で楽しめる娯楽へと発展していく上で貢献したと評価されています。

現在の視聴状況

本作は既に著作権保護期間が満了し、パブリックドメインとなっています。そのため、インターネット上から自由にダウンロードして視聴することが可能です。また、『Landmarks of Early Film volume 1』や『The Movies Begin – A Treasury of Early Cinema, 1894–1913』といった初期映画の重要なコレクションにも多数収録されています。さらに、1992年のドキュメンタリー映画『ビジョンズ・オブ・ライト 光の魔術師たち』や、1996年のコンピレーション『The Lumière Brothers' First Films』の一部としても紹介されています。

『赤ん坊の食事』は、単なる記録映像にとどまらず、初期映画の技術、表現、そして社会への影響を示す貴重な歴史的資料であり、現在でもその魅力は色褪せていません。

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