赤星鉄馬

赤星鉄馬：時代の変遷を生きた実業家

赤星鉄馬（あかぼし てつま）は、1882年（明治15年）に生まれ、1951年（昭和26年）に没した日本の実業家です。海軍への物資調達で巨万の富を築いた赤星弥之助の長男として生まれ、莫大な遺産を相続しました。彼の生涯は、日本の近代化と社会の変遷を映し出す鏡のような存在です。

生い立ちと教育

鉄馬は、東京府神田区猿楽町（現在の東京都千代田区神田猿楽町）で誕生しました。父・弥之助は、海軍御用達の貿易商として巨額の財を成した人物です。鉄馬は、番町小学校高等科を卒業後、東京中学を経て渡米し、ローレンスビル・スクールに入学しました。その後、父の病気により一時帰国し、家業を継ぐことになりました。しかし、1906年には再び渡米し、ペンシルベニア大学を卒業しています。帰国後、一年志願兵として騎兵第1連隊に入隊し、予備役編入となりました。

実業家としての活動

1910年、鉄馬は大阪の開業医の娘と結婚し、新婚旅行で世界一周を経験しました。実業家としては、父が設立した泰昌銀行の頭取を務めましたが、後に経営権を譲渡しています。1917年には、父の遺した美術コレクションを売却し、その売却益の一部を基に、1918年に財団法人啓明会を設立しました。この財団は、日本初の学術財団として、奨学資金の提供を通じて社会貢献に努めました。しかし、鉄馬自身は財団の運営には一切関わらず、親族にも関わらせなかったと言われています。

ブラックバス移入という波紋

鉄馬の行動の中で特に注目されるのが、1925年に行ったオオクチバス（ブラックバス）の芦ノ湖への移入です。彼は、魚類生育域の減少と乱獲に対抗するため、味が良く釣って面白い魚としてブラックバスを選んだとされています。しかし、ブラックバスは生態系を破壊する害魚として認識されており、この行為は当時から批判を浴びました。この件に関する彼の主張は、遺稿として書籍『ブラックバッス』にまとめられています。

関東大震災と晩年

1923年の関東大震災で、鉄馬は麻布鳥居坂の邸宅を失い、その後、武蔵野市（現在の吉祥寺）に転居しました。新たな邸宅は、アメリカから取り寄せた木造住宅を改造したものでした。1934年には、アントニン・レイモンド設計の新居が完成し、現在もその外観を見ることができます。彼は趣味として、馬の研究、釣り、バラの栽培を嗜み、新橋の花柳界では粋人として知られていました。

赤星家の背景

鉄馬の父・弥之助は、武器などの軍需品を扱う政府御用達貿易商として財を成した実業家です。弥之助は、旧薩摩藩の海軍御用掛としても活躍し、神戸港の建設にも関わりました。母のシズは樺山資紀の姪にあたり、弥之助は樺山の視察団に加わって欧米を回り、アームストロング社やクルップ社の代理店権を得ました。鉄馬の兄弟には、ゴルフ界で活躍した赤星四郎と赤星六郎がおり、彼らもまたアメリカの大学に留学しています。

鉄馬の人物像

赤星鉄馬は、莫大な財産を相続した一方で、その財を社会に還元する活動も行いました。また、ブラックバスの移入という、現代においては問題視される行為も行っています。彼の生涯は、激動の時代の中で、様々な側面を持つ人物であったことを示しています。著書『ブラックバス』からは、彼の独自の視点や考え方を垣間見ることができ、評伝『赤星鉄馬 消えた富豪』や『歴史に消えたパトロン　謎の大富豪、赤星鉄馬』は、彼の生涯をより深く理解する上で貴重な資料となっています。

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