赤毛のエイリーク

赤毛のエイリーク：グリーンランド開拓の英雄

赤毛のエイリーク（Eiríkr hinn rauði）こと、エイリーク・ソルヴァルズソンは、10世紀後半に活躍したノルウェーの首領であり、探検家です。彼は、ヨーロッパ人として初めてグリーンランドに入植した人物として知られています。その生涯は波乱に満ち、アイスランド・サガには、その粗暴な側面と並外れたリーダーシップが描かれています。

生い立ちと放浪

エイリークは、950年頃にノルウェー南西部のヤーレンで生まれたとされています。彼の父ソルヴァルドは、殺人の罪でノルウェーを追放され、一家はアイスランド西部のハウカダルに移住しました。アイスランドで財を成したエイリークですが、先住民との間に諍いが生じ、自身の奴隷の殺害に対する報復として相手の親族を殺害したために、アイスランドからも追放されてしまいます。

982年頃に一旦帰郷したエイリークは、財産の返却を拒んだ隣人を盗みの罪で訴え、その息子たちを殺害。これにより、彼は再び3年間の追放処分を受け、この期間にグリーンランドを探検したとされています。

グリーンランド探検と入植

グリーンランドは、エイリーク以前にもグンビョルン・ウルフソンやスネービョルン・ガルティによって発見されていますが、定住には至っていませんでした。982年頃、エイリークは追放期間中に、未知の土地へ航海に出ます。彼はグリーンランドの南端を回って西海岸を航行し、3年間探検を行いました。最初の冬はエイリクセイ島、2年目の冬はエイリクショルマルで過ごし、最後の夏にはスネフェルまで北上、フラフンスフィヨルドまで探検しました。

エイリークは、追放期間を終えてアイスランドに戻ると、グリーンランドの話を広め、入植を呼びかけます。彼は、この地を「グリーンランド」と名付けました。その魅力的と思われる名前により、多くの人々がグリーンランドへの移住を希望しました。彼は、アイスランドの貧しい土地に住むヴァイキングや、飢饉に苦しんでいた人々に、グリーンランドは大きなチャンスであると思わせることに成功しました。985年、25隻の船を率いてグリーンランドに向かいますが、11隻が遭難し、14隻のみが到着しました。入植者たちは、現在のカコトックにある東部入植地と、現在のヌークに近い西部入植地の2つの植民地を設立しました。東部入植地では、エイリークがブラッタフリードに領地を建設し、グリーンランド最高酋長として君臨しました。

晩年とグリーンランドの衰退

ブラッタフリードには、5,000人もの人々が住み、居住地はエリクスフィヨルド一帯に広がりました。しかし、1002年に到着した移民の一団が、植民地を荒廃させる疫病をもたらし、エイリーク自身を含む多くの有力な市民が死亡しました。その後、グリーンランドは一時的に復興しますが、15世紀に小氷河期が到来し、ヨーロッパ人の生活様式に合わない土地となり放棄されました。海賊の襲撃や、イヌイットとの紛争、ノルウェーの植民地からの撤退も、衰退の要因となりました。

人物像

エイリークは、その粗暴な行動から、荒々しい人物として描かれることもありますが、一方で、農場経営や財産の形成、グリーンランド入植前の探検などから、人心掌握と経営手腕に優れていたことが伺えます。また、息子のレイフがノルウェーで洗礼を受け、キリスト教を布教した際も、エイリークは古い信仰を捨てず、改宗した妻との間に溝が生じたと伝えられています。彼は、自身の信念を貫く強い意志を持った人物であったと言えるでしょう。

まとめ

赤毛のエイリークは、グリーンランドの歴史において重要な役割を果たした人物です。彼の波乱に満ちた生涯と、グリーンランド開拓の功績は、アイスランド・サガに詳しく記録され、後世に語り継がれています。彼の足跡を辿ることで、ヴァイキング時代の探検家たちの勇敢さと、当時の人々の生活を知ることができます。

参考文献

21世紀研究会 編著 『人名の世界地図』 文藝春秋、2001年、ISBN 4-16-660154-7。
『世界伝記大事典2＜世界編＞』 ほるぷ出版、1980年、全国書誌番号:81035951。
グンナー・カールソン 『アイスランド小史』 岡沢憲芙 監訳、小森宏美 訳、早稲田大学出版部、2002年、ISBN 4-657-02718-2。
ルードルフ・プェルトナー 『ヴァイキング・サガ』 木村寿夫 訳、法政大学出版局、1981年、NCID BN00322137、全国書誌番号:81017448。
* 日本アイスランド学会 編訳 『サガ選集』 東海大学出版会、1991年、NCID BN0655728X、全国書誌番号:91048674。

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