赤江瀑

赤江瀑（あかえ ばく）は、1933年4月22日に山口県下関市で生まれ、2012年6月8日に亡くなった日本の小説家です。本名は長谷川敬（はせがわ たかし）といいます。

生涯

赤江瀑は、教員の家庭に6人兄弟の次男として誕生しました。幼少期は戦争の影響で疎開を経験。山口県立豊浦中学校、山口県立豊浦東高等学校（現・山口県立田部高等学校）で学生時代を過ごし、生徒会長を務める傍ら、演劇部や文芸部で才能を発揮しました。

映画監督を志し日本大学藝術学部演劇科に進学しますが、在学中に詩作に傾倒し、同人誌「詩世紀」に参加。その後、個人的な芸術活動への関心を深め、映画への情熱が薄れたため、1955年に大学を中退します。1958年、NHKのラジオドラマ脚本募集で「雨の女」が入賞したことを機に放送作家としてのキャリアをスタートさせました。

1968年、歌舞伎台本「大内殿闇路」が評価されたことがきっかけで小説執筆を決意し、1970年に「ニジンスキーの手」で小説現代新人賞を受賞。以降、多くの小説を発表し、その作品数は250編以上に上ります。2012年、心不全のため79歳で生涯を閉じました。

作風と評価

赤江瀑の作品は、歌舞伎や能などの古典芸能、伝統工芸、さらには養蜂や捕鯨といった多様な題材を扱い、芸道と生の間の葛藤や破滅を官能的に描くのが特徴です。デビュー作の『ニジンスキーの手』はバレエを、『オイディプスの刃』では刀剣や刺青を題材とし、その耽美的な世界観が読者を魅了しました。

評論家の磯田光一は『オイディプスの刃』を「日本化されたオイディプス神話」と評し、その日本的な情緒と死生観を高く評価しています。

作家の瀬戸内晴美は、赤江瀑を泉鏡花、永井荷風、谷崎潤一郎、岡本かの子、三島由紀夫といった文学の系譜を継ぐ作家と位置づけました。また、山尾悠子は赤江作品のベスト5を挙げ、彼の独特な世界観を支持しています。

ペンネームの「赤江瀑」は、「赤潮」と「アラシ」を意味し、自身の内面にない荒々しさを表現したかったと述べています。

受賞歴

1970年: 「ニジンスキーの手」で小説現代新人賞を受賞
1972年: 山口県芸術文化振興奨励賞を受賞
1974年: 『オイディプスの刃』で角川小説賞を受賞
1983年: 『海峡』『八雲が殺した』で泉鏡花文学賞を受賞

主な作品

『獣林寺妖変』
『ニジンスキーの手』
『オイディプスの刃』
『罪喰い』
『美神たちの黄泉』
『ポセイドン変幻』
『金環食の影飾り』
『鬼恋童』
『蝶の骨』
『青帝の鉾』
『野ざらし百鬼行』
『春喪祭』
『海峡』
『八雲が殺した』

映画化作品

『白い肌の狩人 蝶の骨』
『雪華葬刺し』
『オイディプスの刃』
『くれないものがたり』

漫画化作品

『阿修羅花伝』
『水鏡の宮』
『黒馬の翼に乗りて』
『燿い川』
『舞え舞え断崖』
『悪戯みち』

文学碑

2022年6月11日、下関市にある菩提寺に文学碑が建立されました。

赤江瀑は、その独特な作風と耽美的な世界観で多くの読者を魅了し、現代文学に大きな足跡を残しました。

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