趙高

趙高：秦帝国滅亡の影の黒幕

趙高(？-紀元前207年)は、秦王朝滅亡の引き金となった人物として知られる歴史上の人物です。史記を始めとする歴史書に登場する彼は、その出自や晩年の暗躍によって、後世にまで大きな影響を与えました。本稿では、趙高の生涯と業績、そして彼を取り巻く様々な論争について詳細に解説します。

不明な出自と始皇帝への接近

趙高の出自は諸説あり、完全には解明されていません。趙の遠縁の公族出身という説が有力ですが、幼少期に母親が罪を犯し、趙高自身も宮刑を受けたという説も存在します。しかし、近年の研究では、この宮刑説に疑問が呈されており、宦官ではなかった可能性も指摘されています。

史記には趙高がいつ始皇帝に仕えるようになったかは明確に記されておらず、詳細は不明です。しかし、勤勉で法律に精通した人物であったことは確かであり、始皇帝の末子・胡亥の教育係を務めた後、晩年の始皇帝から重用されるようになりました。始皇帝の側近として、様々な雑務をこなすうちに、その権勢は拡大していったのです。

沙丘の変と権力掌握

始皇帝の崩御を機に、趙高の野望は本格的に動き出します。始皇帝の五度目の巡幸の際に始皇帝が崩御すると、趙高は丞相李斯を巧みに操り、始皇帝の遺詔を偽造。太子扶蘇を自決に追い込み、胡亥を皇帝に即位させました。これは歴史上「沙丘の変」として知られる出来事です。

胡亥は当初、即位をためらいましたが、趙高の「断じて行えば鬼神もこれを避く」という言葉に突き動かされ、帝位を継承しました。その後、趙高は郎中令に就任し、胡亥を傀儡化。政治の実権を掌握し、奢侈な生活を送る胡亥を操り、独裁的な政治を進めました。

恐怖政治と秦帝国の衰亡

趙高の政策は、基本的に始皇帝の方針を踏襲していました。しかし、その目的は自身の権力強化にありました。彼は阿房宮の増築を推し進め、民衆に過重な負担を強いる一方、蒙恬や公子将閭など、有力者や反対勢力を次々と冤罪で処刑しました。

この恐怖政治によって、秦国内は人心不安に陥り、有能な人材も枯渇。民衆の不満は高まり、反乱の火種は着々と育まれていきました。その結果、陳勝・呉広の乱が勃発し、瞬く間に各地で反乱が拡大。秦帝国の滅亡は避けられないものとなりました。

指鹿為馬と胡亥の暗殺

反乱が拡大する中、趙高と李斯の間には対立が生じました。改革を求める李斯に対し、現状維持を主張する趙高は、胡亥に讒言して李斯を処刑させ、自ら丞相に就任します。しかし、反乱軍は勢いを増し、名将章邯までもが楚に降伏する事態となりました。

都・咸陽が反乱軍に包囲されると、趙高はついに胡亥を殺害する計画を実行します。その際に有名な「指鹿為馬」の逸話が残っています。趙高が鹿を馬と偽り、群臣をテストし、反対者を粛清したのです。

紀元前207年、趙高は胡亥を暗殺し、自ら帝位を奪取しようと試みましたが、群臣の支持を得られず失敗します。代わりに、子嬰を擁立しますが、子嬰は趙高を殺害し、一族を滅ぼしました。

趙高の評価と歴史的意義

趙高は秦帝国を私物化し、多くの忠臣を殺害し、最終的には皇帝をも殺害しました。その残虐な行為は民衆の怒りを買い、秦の滅亡を早める結果となりました。そのため、後世においては悪臣の代表格として、しばしば批判の対象となっています。

また、趙高は宦官であったという説が広く信じられてきましたが、近年の研究では、宦官ではなかったという説も提唱されています。この点については、新たな史料の発見や研究の進展によって、今後さらに議論が深まる可能性があります。

趙高の生涯は、権力の腐敗と、それがもたらす悲劇を象徴する物語として、現代においても我々に多くの教訓を与えてくれます。

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