跡部の踊り念仏

跡部の踊り念仏

跡部の踊り念仏は、長野県佐久市跡部地区に伝わる伝統的な民俗芸能です。鎌倉時代に時宗の開祖である一遍上人が始めたとされる踊り念仏を起源とし、その歴史的、文化的価値から、国の重要無形民俗文化財に指定され、2022年にはユネスコ無形文化遺産にも登録されました。

概要

一遍上人は、佐久の伴野荘小田切郷において最初に踊り念仏を行ったと伝えられています。その伝統は今もなお跡部地区に受け継がれており、本来は野外で行われていたものが、現在は浄土宗西方寺の本堂内に設けられた「道場」で、毎年4月に奉納されています。踊り手は男女で構成され、太鼓や鉦を打ち鳴らし、念仏を唱えながら踊ります。かつては佐久地方の各地で見られた踊り念仏も、現在では西方寺に残るもののみとなっています。

歴史

一遍上人が、流罪となっていた伯父の河野通末を訪ねてこの地を訪れた際、紫色の雲を見て感銘を受け、念仏を唱えながら踊ったことが始まりとされています。江戸時代には旧暦2月に三日三晩にわたって行われていましたが、大正時代からは西方寺の縁日に行われるようになりました。戦時中には一時中断されましたが、昭和27年に再開され、現在は4月に行われています。ただし、中断期間中に「来迎和讃」「四方将軍」「極楽念仏」などの演目が失われ、「賽の川原和讃」のみが残っています。平成12年には国の重要無形民俗文化財に指定、令和4年11月にはユネスコ無形文化遺産に登録されました。

内容

継承者

跡部地区に在住する男女によって継承されています。踊り手となるための特別な階層や家筋などの制約はありません。

道場

道場は3.38mの土台で囲まれ、四十九院の塔婆が方2間に並べられています。鳥居が4基（東に発心門、南に修行門、西に菩薩門、北に涅槃門）建てられ、中央には2面の太鼓が置かれ、その台には数珠がかけられています。上部には天蓋が張られ、鳳凰が飾られています。これは、一遍上人一行が鎌倉に入ろうとした際に制止され、片瀬の浜の地蔵堂で踊り念仏を行った故事に由来するとされています。また、道場には幟や幕、花などが飾られますが、これは土葬の際の「棺台」の姿を表していると言われています。道場で使用される道具の中には江戸時代のものも含まれており、西方寺に保管されています。

装束

踊り手は、縞や絣の着物、または喪服などを着用し、白足袋を履きます。「南無阿弥陀仏」と書かれた白襟布をつけ、数珠をかけることもあります。太鼓係は、さらに白襷、白手甲、鉢巻を着用します。

道具

太鼓は平成18年(2006年)に新調されたもので、それまで使用されていた古い太鼓には正徳3年(1713年)の銘がありました。鉦は直径16cmの青銅製で、跡部村の銘があり、鎌倉時代に跡部村金山地籍で鋳造されたものと推定されています。

人数と役割

男女8人で構成され、そのうち2人が「賛しさ」と呼ばれる音頭取り、残りの6人が「踊り手」として胸に鉦を吊るします。

流れ

太鼓方の合図で、踊り手が引声念仏（ナームーアーミーダーブーツー、あーりーがーたーやー）を唱えながら涅槃門脇の入り口から道場へ入ります。平念仏（エー、ナムアミダブツ、ナムアミダブツ）を2回唱え、最後に切り念仏（引声念仏を1回唱える）を唱え、「賽の河原和讃」を合唱します。「賽の河原和讃」と平念仏を2回繰り返した後、最後に切り念仏を唱えます。この一連の流れを「往生」といい、死後に極楽浄土へ生まれ変わることを願います。次に、鉦を叩きながら飛び跳ねる「踊り」を3回繰り返し、最後に1人ずつ涅槃門脇から退場します。この流れを「観相」といい、浄土で生まれ変わって現世に戻り、苦しむ人々を救済することを意味します。この二段階構成は、法然から証空上人へと受け継がれた「二種廻向」という思想に基づいています。

団子

踊り念仏の後には、本尊に供えられた三色団子が参拝者に配られます。この団子を食べると知恵がつく、または風邪をひかないと言われています。かつては、妊娠中の女性が一際大きな団子を食べ、安産を願ったとも伝えられています。2024年現在は市販のものが配られています。

説話

地名: 跡部の舞台区は、かつて踊り念仏の舞台があった土地であると伝えられています。金鋳場区は鉦を鋳造した場所、市庭区は一遍上人が最初に踊った場所であるとされています。
紫雲: 一遍上人は紫雲に感激して踊り始めたとされていますが、跡部地区の南方約300mには時宗金台寺があり、その山号は「紫雲山」です。

参考文献

佐久市『佐久市志 民俗編 下』佐久市志刊行会、1990年2月20日

外部リンク

跡部の踊り念仏 – 佐久市
* 跡部の踊り念仏 信州の伝承文化 八十二文化財団

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