車椅子ソフトボール

車椅子ソフトボール

はじめに

車椅子ソフトボールは、通常のソフトボールから派生したアダプテッドスポーツです。この競技では、プレイヤーは専用の車椅子に乗りながらプレーを行います。試合は主にアスファルトなどの硬く舗装された平坦なグラウンドで行われるのが特徴です。これは車椅子のスムーズな操作を可能にするためであり、芝生や柔らかい土のグラウンドは通常使用されません。類似の競技として車いす野球がありますが、こちらは野球仕様のボールを使用する点が異なります。また、車椅子野球ではバットで打ちやすくするため、ティーボール方式が採用される場合もあります。

歴史と普及

車椅子ソフトボールの歴史は、1970年代初頭のアメリカ合衆国に始まります。最初のチームとして、サウスダコタ州スーフォールズで誕生した「スーウィーラーズ」がその草分けとして知られています。この動きに触発され、同年代半ばにかけてアメリカ中西部の各都市で次々とチームが結成されました。「カルネージ・ローリング・ゴーファーズ」や「デモイン・ロードランナー」、イリノイ大学のチームなどが代表的な例です。1976年には、これらのチームを統括する組織として全米車椅子ソフトボール協会（NWSA）が設立されました。NWSAの牽引力により、リーグは急速に発展し、1980年代には中西部を中心に多くのチームが加盟しました。さらに競技は広がりを見せ、中西部以外の地域からも参加チームが増加。1998年にはニューヨークにも持ち込まれ、新たなチームが多数誕生しました。2015年の時点で、ジュニアチームを含め80以上の団体がNWSAに登録されており、その多くがメジャーリーグベースボール（MLB）球団の協賛を得て、その下部組織のような形で運営されています。

日本国内における車椅子ソフトボールの普及は、北翔大学の大西昌美氏によって大きく進められました。その活動の原点は、高校野球経験を持つ車いすバスケットボールの選手から受けた「もう一度野球をしたい」という切実な願いでした。大西氏は2008年頃から車椅子野球を実現するための道具開発やルール作りに関する研究に着手しましたが、多くの技術的・物理的な課題に直面し、実現は困難でした。しかし、2012年にアメリカで車椅子ソフトボールが行われていることを知った大西氏は、車いすバスケットボール選手の堀江航氏と共に日本代表チームを結成し、全米選手権（NWST）に出場しました。これを機に、活動は車椅子野球から車椅子ソフトボールへとその形を変えていきました。2013年4月には、日本車椅子ソフトボール協会（JWSA）が正式に発足。同年7月には、東京都から2チーム、北海道から2チームの計4チームが参加する記念すべき第1回全日本車椅子ソフトボール選手権大会が開催されました。さらに同年8月には、再びシカゴで開催されたNWSA主催の全米選手権（NWST）に参加。日本代表チームの2年連続出場はNWSAに大きな影響を与え、全米選手権は「世界選手権（WSWS）」へと名称を変更する決定がなされました。

このように、車椅子ソフトボールは発祥地であるアメリカ国内から世界各地へと広がり、現在では数百ものチームが存在するまでに発展しています。アメリカでは主に障害者スポーツとして広く認知されていますが、日本では障害のある選手と健常者の選手が共にプレーする混合チームが結成されるなど、多様な広がりを見せています。

競技ルール

車椅子ソフトボールのルールは、基本的にスローピッチ・ソフトボールのルールに準拠しますが、車椅子でのプレーに合わせた独自の特別ルールが付加されています。以下は、主に日本車椅子ソフトボール協会が定める大会ルールに基づいた説明です。

グラウンドは、車椅子の走行に適した硬い平地が使用されます。アスファルトや硬く整備された土のグラウンドが理想的であり、体育館や広い駐車場が活用されることもあります。柔らかい地面や草地は車椅子の動きを妨げるため不向きです。

グラウンドの寸法は特別に定められています。ファールラインは本塁から150フィート以上の長さを持ち、外野フェンスまでの直線距離は180～220フィートが推奨されます。ダイヤモンドは塁間が50フィート、本塁から二塁までは70フィートです。ピッチャープレートは本塁から28フィートの位置に置かれ、その大きさは2フィート四方です。ベースは基本的に直径4フィートの円形ですが、二塁のみが白い円形であり、一塁・三塁・本塁は半円形です。一塁ベースのファールゾーン側には、ランナーが駆け抜ける際に使用するための別のベースが設置されます。外野は、本塁を中心とした半径100フィートの円とファールラインで区切られたエリアです。

選手は全員、フットプラットフォーム（足置き）が付いた競技用車椅子を使用します。使用されるボールは、直径16インチサイズのソフトボールです。

試合は1チーム10人で行われ、最大7イニング制です。ただし、5回または6回終了時点で10点以上の点差がついた場合は、そのイニング終了をもってコールドゲームとなります。審判は、球審と塁審がそれぞれ1名ずつ配置されるのが一般的です。

攻撃に関する主なルール

打者は全員1ボール1ストライクの状態から打席が開始。2ストライク以降のファールはアウト（三振と同様）。
触塁は、車椅子の車輪（キャスター、後輪）一つ以上がベースに触れることで成立（転倒防止キャスターは除く）。
走者は必ず車椅子に座って走行。ベースタッチは手で触れるか、車輪一つ以上がベースに触れる。
走行中に車椅子から転落した場合、その場所から再乗。ベース上での転落は、体の一部が車椅子に触れていればOK。
走者が地面や他の選手の車椅子の動きを妨げる場所に手足を出した場合、「ディレイドデッドボール」扱い。
打者がスイング時に下肢を地面に接触させた場合、ボールデッド、打者アウト、走者は元のベースに戻る。

守備に関する主なルール

投手からボールが離れるまで、内野手は内野制限ライン上またはその内側。違反は打者フォアボール。
外野手（SF除く）は、外野制限ラインの後ろに位置する。
野手は、プレー中に足を地面につけない。誤ってついても、すぐに足を戻せばプレー継続可。違反は「ディレイドデッドボール」扱い。
選手が車椅子の座席からでん部が離れる行為（「リフティング」）も不正行為とされ、「ディレイドデッドボール」対象。

今後の展望

車椅子ソフトボールは、アメリカでの発祥から世界へと広がり、多くの人々にプレイされています。障害の有無にかかわらず、チームスポーツとしての楽しさや戦略性を追求できる点が大きな魅力です。今後も更なる普及と発展が期待される競技です。

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